君の笑顔が力になる

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君の笑顔が力になる

 帰り道、SNSで結に連絡をしてみた。  二つ返事で来てくれた。  最寄駅から300メートルほど大通りを進むと、左手にあるカフェに入った。  仲間内でよく使っているカフェである。  仕事帰りのサラリーマンが、夕食を食べている。  店内は明るく照らしだされ、奥までよく見えた。  カウンターでコーヒーを頼むと、2人がけの席にドサリと腰を落とした。  ため息を一つついて、往来を眺めていた。  コーヒーをすすりながら、スマホのニュースや経済紙を眺めていた。  世の中は深刻な不況に突入した。  まだ大きな混乱はないが、明らかにインフレが進んでいる。  出口が見えない経済不安が、胃を締め付けてくる。  20分ほど待つと、結の姿を認めた。  右手を上げると、ニコリとして入ってきた。  同じブレンドコーヒーをトレイに乗せ、向かい側に腰を下ろす。 「どうしたの、浮かない顔して」  大学時代から、サークルや飲み会で知り合った仲間が時々会社帰りに よもやま話をする。  結はそんな仲間の一人だった。  笑顔を見ただけで、さっきまでの憂鬱が消し飛んでしまった。 「俺、暗い顔してたか」 「そうだよ。  最近悩みがあるんじゃないかってみんな言ってたよ」 「そうか」  正直仕事に行き詰まりを感じていた。  データアナリストは給料が高いから、喜んで始めたのだが人間関係を調整する能力が欠けている。  また今日の反省会の光景が頭を支配した。 「ちょっとね、愚痴になっちゃうけど」 「別にいいよ。  お互い様でしょ」  今日の出来事を話すと、気分が楽になった。  誰かに聞いて欲しいときに、損得なしで聞いてくれる。  ありがたい存在だった。 「ふうん。  私だって、理系女子だから人間関係は苦手だけど」  今度は結が話し始めた。  入社間もないので先輩社員からの指示に従っていると、いろいろ鬱屈した思いを抱えているようだった。  俺と結は共通点が多い。  理系で、自信家で、人嫌いなところがある。  こうして話しているだけで、明日も頑張れそうだった。 「それじゃあ、また明日から頑張ろうね」  20分ほど話して、それぞれ帰路についた。  いつもの道が、少し色づいて見えた。  途中のコンビニに寄ると、冷凍パスタと缶ビールを買う。  夜空を見上げると、星が優しく瞬いていた。
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