噂話

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噂話

「結婚するって知ってるか」 「誰が」 「結だよ」  6畳ほどしかない部屋には、パソコンデスクと折り畳みテーブルがある。  フローリングはきれいに掃除されていて、男の一人暮らしの割にはスッキリしている。  昼光色の真っ白な電灯が、白い壁を一層白く照らす。  洗いはじめた洗濯層の中の水が、大きな音を立てた。  流し台では、水が滴る音。  外を大型トラックが通った。  寝る前にはうるさいと思うが、夜中でもマンションの前を通るので気にしなくなっていたはずだった。  言葉を失っている自分に、ハッとした。 「へえ、結婚するって。  誰とだい」  極力平静を装った。  なぜここまで動揺するのだろう。  友達が幸せになるのだから、喜べばいいはずだ。 「大丈夫か」 「何で。  祝福するよ」 「(あきら)だよ。  詳しいことは分からないが、プロポーズしたらしい」  心臓が高鳴っていた。  仕事の愚痴などを話すと心が晴れた。  今日のように。  結は、ただの友達ではない。  生活の一部。  いや、身体の一部かもしれない。 「なあ、晃は大学時代から新薬の開発をしているんだ」 「ああ、知ってるよ。  人の心を読む薬なんて言ってたな。  あいつ、ロマンチストなところがあるんだよな」  話しながら、背中に冷汗が出た。  まさか。 「完成したらしい。  まだ実験段階だが、自分で飲んでみたと言ってた」 「何だって ───」
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