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お父さんは口から米粒を飛ばしながら箸をカチカチさせて煽っている。
「ちょっと気になっていて」
大学で知った情報についてお父さんにぶつけてみるか迷っていた。どうせちゃんと答えてくれないと分かっている。
それでも、こちらが何も知らないと思われて甘く見られなくなるかもしれない。お父さんがボクを跡継ぎにさせようとする野望にストッパーをかけられるかもしれない。
ボクがあの研究室で行っていた実験を気持ち悪いと思っていると知ったら、さすがに臆するだろう。
「気になるって、何がだい?」
ニィーっと笑うお父さんの、下の前歯の隙間に肉の欠片が挟まっている。
「あの焼肉屋さんのお肉ってさ、浣人っていう偽物の人間の肉なんでしょ」
ずっと食事に集中して自分の殻に籠っていたお母さんが、素早く食卓から立ってリビングを去った。お父さんはボクの顔を見ながらニィーとした表情を維持したままフリーズしていた。
「慎太郎君は色々知ったんだね。うふふ。良かった良かった」
両手を打ち鳴らしながらお父さんはクツクツ喉で笑い始めた。
「な、何が、良かったの?」
「慎太郎少年や、素晴らしいとは思わないかい? ただの生きてものを考えるだけしか取り柄のない人間が、万物にとって役に立つようになるのだよ。お父さんはそのために研究を頑張っている」
お父さんは椅子から立ち上がって両手を広げて、高らかに声を上げた。ボクは何も言えずに見上げるしかできない。
「少年よォ、人間は何のために生きているのか分かるかい?」
首を横に振るしかない。そんな問題考えた経験もないし、考え方も分からない。
「少年。そういうことなんだ。人間は生きることだけに価値を見出して、生きるだけで益を生まずに自己満足の生を全うするんだ」
「自己満足なの?」
精一杯出せる言葉の限界だった。
「そうさァ、だって理科の授業でやっただろう植物は空気を浄化させる能力があり、今食べている肉じゃがの肉になった豚だって食用として大した働きをしている。害虫だって、例えばゴキブリっているだろ。あれってバイオマス発電のためにゴキブリから発生する燃料を使ったりしているんだ」
お父さんは楽しそうにスキップしながら食卓とボクの周りをグルグル回転しながら主張し続けた。本音を喋っているからか、とても楽しそうにも見えた。
お父さんにはお父さんなりの正義があるみたいだ。
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