人肉館にて、見たことのない小屋と遭遇

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 和馬君は大量の植木鉢や血痕を思い出しているに違いない。だが、普通ではない人の叫び声とは何の話だろうか。心当たりはなかった。  和馬君の声が段々大きくなって、こちらに近付いているみたいだ。ここで会うとまた気まずくなりそうなので、今日は去ろう。  地面を蹴って来た道を戻るようにペダルを漕いだ。これから帰ろうか。やはり人肉館が気になる。もはやボク自身とへその緒でつながったみたいな親しみを覚える。理屈では分からないけど、もっと骨の芯や脳の真ん中まで染み込んだ親和性だ。  市道を過ぎて山道へ入ると、木々の奥に影が見えた。前に来た時と何も変わらない鬱々としたただのコンクリートの残骸だ。ただ一人で来たせいか、廃墟は余計に静の墨色の衣をまとっているようだ。  整備された道から外れ、野バラの枝を掻き分けて近づく。秋になり落ち葉が積もって足元がよく滑る。枯れた樹木に囲まれた元山荘がボクを威圧せずに、人畜無害そうな表情で佇んでいる。  元々来る予定ではなかったので、懐中電灯を持って来ていない。中に入っても壁のないところ以外は何も見えない。何となく植木鉢の輪郭は見えるが、どこに血痕が残っていたのかなどは分からない。  入口だっただろう壁のない場所に立ったまま、和馬君の言う叫びが聞こえないか待ってみた。だが、枯れ葉が風に吹かれる乾いた音や、鈴虫やコオロギの控え目だけと耳障りな鳴き声ばかり聞こえ、人の声など一切聞こえない。  廃墟の周りを観察してみよう。前に和馬君と来た時は中しか見ていなかった。中にたくさんの植木鉢や血痕があるのなら、外にも異物があっても良さそうだ。  コンクリートの外壁に手を付きながら足を滑らせないように回った。  丁度百八十度ほど回ったところで、目の前に山の斜面が見え、その上に建物らしき影がボンヤリ見える。別館だろうか。確か人肉館には別館の浴場があったはずだ。  再び野バラの棘に攻撃されながら斜面を上った。あの中に和馬君が聞いた悲鳴の主がいるかもしれない。体内の筋肉が緊張と緩和を繰り返してくすぐったい。  何だかおかしい。  枝木を掻き分けて進むと、廃墟ではなかった。真新しい仮設で作られたような木造の倉庫のような小屋だ。白っぽい木肌に木目が目立ち、まだ若い木材をそのまま積み重ねた造りだ。  だが、小屋の真新しさが逆に違和感を抱かせ、不気味な黒い影をスーッと伸ばしているように見える。  和馬君の聞いた悲鳴は空耳ではなかったのかもしれない。一気に説得力が上がった。  正体不明の小屋の扉らしきものを探して周囲をグルグルと落ち葉を踏みながら回って見た。どこにも中に入れそうな場所がない。  扉などなく、何だかすごい秘密がありそうだ。  今度和馬君にこの小屋の話をしよう。いつもニュースを貰ってばかりだったので、ボクからも教えたい。悲鳴の正体の解明にも役立つかもしれない。
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