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翌朝、ボクは人目を忍んで和馬君に話しかけた。生きているようには見られてはいけないので、死霊は生き辛い。
和馬君がトイレに入ったタイミングでボクもトイレに向かった。
「ねえ、昨日の夜さ人肉館に行ったんだけどさ、すごい発見しちゃったんだ」
「マジで? 一人で行ったの?」
和馬君が用を足している隣の小便器の前に立って話しかけると、カクカク首を回して、こちらを向いた彼の黒目はクルクルクルと小刻みに回転した。ボクは明確に頷いてみせる。
「そっか、そうかそうか。そういうことか。大丈夫だった?」
「大丈夫って、何が?」
「やっ、何でもない。やっぱ何でもない」
彼は高速でブルブル首を振っており、手洗いも忘れてトイレからふらふら足早に出て行った。また背中に大きな汗の跡ができている。
和馬君が出て行った後、入口近くにある用具入れの戸の下の隙間から小さめのゴキブリが超スピードで這い出て来た。ゴキブリは彼の後を追った。
その日、和馬君は下校時間まで夢遊病者みたいなフワッとした儚げな雰囲気で教室を歩いていた。授業中に黒板の前に行く時や、給食を配る時もずっと背中や頭が綿毛みたいに揺れていた。
和馬君は一体どうしてしまったのか、考えながら頭を垂れて放課後家に帰ると、平日なのに珍しくお父さんがいた。暗くて重たい気分の上にヘドロのような粘性の強い不快感を乗せられ、どす黒い山かけを作られた気分だ。
リビングのソファに座って何か水みたいな透明な液体と薄桃色の液体を同じコップに注いで掻き混ぜていた。その液体は幻想的な柔らかい泡を表面から飛ばして、栗を腐らせたような甘さを含んだ不快臭を放っていた。
何それとお父さんに聞きたかったが、液体を掻き混ぜているお父さん自体に対する嫌悪感のせいで声をかけるなど不可能だった。
「これで俺の桃源郷が実現するんだぞォ。こんなに甘ったるくて香ばしいカーニバルは他にないだろうなァ。こいつを与えればニョキニョキチューって感じなんだよなァ」
ボクの耳が拒絶し、階段を駆け上がって自室に籠った。香ばしいカーニバルとは一体どういう意味なのか。
嫌な予感はするが、何となく気になる
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