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十六時過ぎ、和馬君と一緒に自転車を漕いで市道を走った。十二月の凍った路面を二人して慎重に行く。
「そういりゃさ、夏休み後くらいに言ったさ、新潟市で大量の男の子の赤ちゃんが海で見つかったって話覚えてる?」
斜め前を走る和馬君は前を向いたまま話しかけた。そんなニュースすっかり忘れていた。言われてすぐに思い出した。
「覚えているよ。あれがどうしたの」
「それがさ、犀川でも一体同じようにチンコ取られた死体が見つかったみたいだぜ」
滑って自転車ごと倒れそうになった。犀川とは松本市を流れる川だ。犀川はここから北に向かって流れており奈良井川と合流した時点からは千曲川となる。千曲川が長野県から出て新潟県に入ると信濃川になる。
「じゃあ、あの赤ちゃんの死体は犀川で捨てられて信濃川まで運ばれて行ったって感じなのかな」
「それしか考えられないっしょ。やべえよな」
まさか自分たちの住む地域に関係する事件だとは思っていなかった。だからと言って何がどうなるなどないが、心臓がキュンとして何となく興奮を覚える。
「てけてけが鎌でチンコ刈ったのかな」
楽しくなって訳の分からない冗談を口走った。和馬君は笑ってくれたので、彼も一定残酷欲求によってタガが外れているのかもしれない。
和馬君と一緒にカブトムシの幼虫に玩具の注射器で水を注入して、車に轢かせて遊んでいた春休みを思い出した。あの時と同じ種類の笑いだった。
「見えて来た見えて来た」
和馬君の視線の先を見た。全裸の黒い木々の隙間から色彩が覗いており、純白の積雪の上で光っている。イチゴ色の点滅やケミカルな緑の塗装が焦げ茶色の木肌に紛れている。
「周りの木はそのままにしているのか」
「いや、店の入り口のところはなくなっているっぽいね」
店に近づくと、木がなくなっているところを見つけた。そこを真っ直ぐ上って行くと店の入り口に辿り着く。自転車を押して向かっていると、真緑のペンキで塗られた毒々しい扉が目に入った。扉の周りには赤い電飾がアライグマの形で光っていた。
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