不自然なほど大量な、男児の死骸

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不自然なほど大量な、男児の死骸

   ※ 新学期が始まる  夏休みが終わった初日の九月一日、ボクは四年二組の教室にボタボタとした重くて陰気な足取りで入った。クラスメイトはボクを鼻つまみ者として認知し、近寄りたくもなさそうだ。  ボク自身の扱われ方がお父さんがレンタルした映画の「死霊のはらわた」の死霊と重なったため、ボクはこの教室の中で死霊としての役を徹している。映画では呪われて死霊になった主人公の姉が人を襲い呪詛の言葉を発し続けるため、主人公たちに地下室に閉じ込められる。  存在自体忌避される。ボクと同じだ。  死霊の役は人と話さないから楽だけど、簡単ではない。生きているのに生きていないみたいに振る舞わないといけない。  授業にも支障がないとも言えない。グループワークの時間になると、一応グループに参加はしても、誰にも話しかけられない。たまに間違えてボクに話しかける人がいると、みんなが蒼ざめるだけ。  別に家にいても嫌いなお父さんとお母さんがいるだけなので、学校に行った方がマシだが、嫌な立場にいる実態は変わらない。どこにいても、嫌なものは嫌だ。  唯一、小学二年生の時からボクに話しかけて来る生徒が一人だけいた。和馬君だ。  夏休み明けの初日も、和馬君に何のためらいもなく話しかけられた。座席に座って静かに生気を抑えていたボクの右肩をポンポンと熱が叩いた。 「昨日の新潟のニュース見た?」  振り返ると、和馬君がボクの右肩に手を置いて笑みを浮かべていた。  無言で首をゆっくり横に振った。死霊のボクは気を使って人に感知されないように、空気の波すらもなるべく作らない。 「知らないの? ニュースでメチャクチャやってんじゃんか。ほら、赤ん坊のやつ」  ボクの家族はドラマや映画以外でテレビを観ないので、和馬君は面白い事件があるとよく教えてくれる。 「新潟市に信濃川っていうこの前社会で習った川あんじゃん。あの川の河口に大量の男の赤ん坊の死骸が浮かんでいたらしいぜ」  内容を聞いていると背筋が伸びた。大量殺人だけでもセンセーショナルなうえ、赤ん坊の、しかも男の子のみ。何だかミステリーっぽくてワクワクさせられる。 「しかもな、大量って、マジでエチゼンクラゲの大量発生と同じくらいってニュースの人が言っていたんだぜ。やばくね? それにな、もっとやばくて。その男の子さ、全員手足が未熟でな、しかもチンチンが取り外されているみたいなんだ」  テレビで観たハリウッドの冒険映画のテーマソングがボクの脳内で流れ始めた。面白いものは面白い。  始業のチャイムが鳴った。校内放送が始業式のため全員校庭に出るようにと伝えた。椅子や机をボク以外の人間が動かす。和馬君はボクの右肩をまた叩いて別の人間の元へ戻って行った。
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