人畜の子として、生まれた意義

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人畜の子として、生まれた意義

 ボクはパイプ椅子に腰かけて黄色く変色したコピー用紙の束の内容を読んだ。すぐにレイチェルたちの姿が頭に思い浮かんだ。これを書いたのは間違いなくお父さんだろう。  お父さんはこの書にある浣人の肉を食べさせるために焼肉屋さんを始めたに違いない。 「慎太郎君、この論文の下書きを読んで何を思うかな?」  伊藤教授がボクの座る前にしゃがみ込んで、両肩に手を置いた。何も答えるべき言葉が出て来ない。  今までお父さんは何の仕事をしているのか知らなかった。しっかり平日にスーツを着ていたのは、カモフラージュだったようだ。 「この椎野研究員はどこにいるのでしょうか?」  森先生が伊藤教授と船橋さんを交互に見ていた。 「どうだったっけ。船橋君覚えている?」 「当然ですよ。アンナが屠畜と称されて殺された後に椎野さんも剝皮されて絶命したじゃないですか。覚えていないのですか」 「そうだっけか。言われてみれば、そんな記憶があった気がしなくもない。何でそんな風になったんだっけ」 「本気ですか、教授。彼女はアンナに感情移入しちゃったのですよ」  ここでようやくピンときたようで、伊藤教授は手を叩いて大きな音を響かせた。 「思い出した。確かあの時初めて陽郎君が悲しそうな顔をしていたんだった。いやあ、あの陽郎君が椎野さんのことを好きだったなんて考えてもなかったからな」  森先生と船橋さんから発せられる固形に近い攻撃的なオーラで室内の空気がガサついた。 「ちょっと、慎太郎君がいるのですよ」  船橋さんがボクと伊藤教授の間に立って、教授に向ける矢印の先端をますます尖らせた。 「分かっていますよ。別に慎太郎君だって子供扱いされたくないでしょう。お父さんの恋心くらい聞いても良いでしょう」  船橋さんの背中が少し小さくなった。 「陽郎君は最初から椎野さんが好きだったのでしょう。でも椎野さんが死んでしまい、彼女と仲の良かった貴子さんがお葬式の時にやって来て、陽郎君と再会したんじゃなかったっけ?」  誰も何も答えない。 「続きが聞きたいです」  ボクは椅子から立ち上がって伊藤教授に近寄った。森先生と船橋さんの顔は見られなかった。
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