何も考えていない人間の醜さ

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 どこかの神経が、ポッキーが折れたみたいにパキリと言った。なるほど、本当にボクは死を望まれているのか。ボクは死霊の役を演じて来た。死霊は映画で体をバラバラにされると動かなくなっていた。お望み通りにするには、自身の体をバラバラにすれば良いのか。  たしかここは三階の部屋だった。三階から飛べばボクの体は木っ端微塵になるだろう。ここでボクが死ねば、船橋さんは人生後戻りできなくなるだろう。 「そうかそうか、死ねば良いんでしょ。ハハハッ。いいよ。全然死んであげるよ。もうこんな人生嫌だ。死んで幽霊になってここの地縛霊になってやろうじゃん」  窓を開けてバルコニーに出た。凪の夜で風が全く吹いていない。 「慎太郎、落ち着け。死んだら駄目だ。死んだら楽しい未来も何もかも失っちゃうぞ」  本当に慌てているのか、熱血教師の設定を忘れた森先生に羽交い絞めにされた。 「船橋さん、今の嘘ですよね?」 「嘘嘘嘘、本当に嘘。嘘嘘。マジで嘘。死んじゃ駄目だ。死んだらお父さんも悲しむって」  船橋さんは発言のたびに矛盾を露呈させる。  ボクの人生で一番虚無感を覚えた瞬間だった。泣きたくないが、泣いて悲しみという感情でボクをわざと満たさないと本当にどうでも良くなって、自殺願望に支配されそうな気がした。  新月なのか、月が全く見えない空に向けて、喉を振るわせて慟哭を発射させた。近所迷惑を気にしたのか、森先生はボクの顔を胸で抑えるように抱き締めた。  この大人たちは一体何なのか。どういうつもりで生きているのか。全てが不明確で、お父さんとは別種の嫌悪感を抱く。
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