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※ 和馬君との出会い
和馬君と知り合ったのは小学二年生の時、ボクは完全な死霊役ではなかった。元々友達が多いわけではなかったが、まだ呪われておらず人と話す行為が許された人間の生徒だった。
だが、何となくボクを気に入らない人が多いようで、徐々に呪われ始めている時期でもあった。
和馬君は人気者ほどではないが、クラスの中でも明るくサッカーも上手い生徒のため、変に上位グループであると意識もせず、ボクのような生徒も受け入れられたのかもしれない。
「怖い話って好きか?」
初めて和馬君がボクにかけた言葉だ。今でもよく覚えている、小学二年生の六月の最後の日だ。四時限目の理科が終わり、実験室から教室に戻る廊下で背後から声をかけられた。横の窓から差し込む陽光で和馬君の顔が白かった。
「結構好きだけど、何で?」
テレビ番組の「世にも奇妙な物語」が好きで、怖い話には興味があった。
和馬君は教科書とノート一緒に持っていた本の表紙をボクに見せた。「日本の都市伝説大全」だった。タイトルの周りには黒灰色のドクロや桃色の人体模型、充血した黄褐色の眼球、黒々とした髪の毛が至るところに描かれていた。
「これ読んだことある?」
ボクは首を縦に細かくコキコキと振った。
「おっしゃい、じゃあさ、この五十九ページのさ、ジェットババアってやつも読んだ?」
彼はボクの横に並んで一緒に歩きながら本を開いて見せた。五十九ページ、そこには腰を曲げてこちらをボンヤリした目で見た老婆の全身像があった。どこにでもいる普通の老婆だが、絵のタッチがおどろおどろしくツヤツヤしていた。
「これも読んだよ。車よりも速く走るお婆さんでしょ」
「知ってんじゃん。実はさ、このジェットババアがさ、この前中山霊園で出て来たらしいんだぜ」
中山霊園とは松本市内最大の墓地だ。深夜の二時に入口付近で幽霊が出ると噂もあるが、信憑性は殆どない。一応心霊スポットとして知られてはいるが、名ばかりで実物の霊を見たと言う人は未だゼロだ。
「今日の夜さ、試しに行ってみようぜ」
別に反対する気もなかったので、その夜ボクは自転車を漕いで松本駅で集合した。和馬君は両親が寝静まってから出て来た、と言ってなぜか顔をりんご飴みたいな色にしていた。
ボクはお母さんがキッチンの前で念仏みたいな独り言をブツブツ発しながら床に座り込んでいただけで、特に何も言われなかった。いつものことなので、何もおかしいとは思わない。
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