お父さんの思う正義、人間の罪と役割

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 お父さんとお母さんも既に食事を始めていた。食卓の真ん中に大きなボウルがある。レタスやトマト、ツナのサラダだ。そのボウルの中には既にレタスの破片と小さな潰れたトマト、ドレッシングでべちゃべちゃになったツナが底に溜まっていた。ボクはカスみたいな野菜を器によそって、肉じゃがを電子レンジで温め直して椅子に座った。  サラダに箸をつけながらなぜか笑顔のお父さんを見る。 「ねえ、お父さん。船橋さんってどんな人なの?」 「船橋ィ? あれはフケが本体の生き物なんだよ。人の形をした肉の方は大きな飾りだから。サイドカーみたいなの想像してくれれば良いよ。フケのサイドカーが肉体って感じ。きっと脳みそがフケにしか入っていなくて、一個の脳みそでは何も考えられないんだよ。あんな人間になっちゃ駄目だぞっ」  ウインクされた。気色悪さから全身の神経がバグを起こして、サラダの味がしなくなった。 「嫌いなの? どうして嫌いになったの?」  お父さんはボクが船橋さんを知っている点には触れなかった。 「あれはな、脳みそが小さいから自立した考えができない生物なんだぜ。昔ある女性がいてな。俺がその人を好きになったらさ、船橋も好きだって言うようになったんだ。俺に盗まれたとか思ってたのかなァ」  ボクは伊藤教授の口から、お父さんが椎野という研究員に恋をしていた話を思い出した。 「ある女性って?」 「え? あァあァ、レイチェルちゅわァんっていう外人の女性さあァ」  スイッチが入ったのか、完全にお父さんは道化になった。本当の話をしたくないみたいだ。やはり椎野という女性の記憶はお父さんにとっても消したい過去なのか。 「そういえばさ、お父さん、あの焼肉屋さんの肉って何の肉なの?」  ボクは我慢できず、椅子に座るとすぐにお父さんに直接疑問をぶつけた。もしかしたら、食肉用の人間の肉である話が嘘であるかもしれない。 「えっ、超美味いアライグマの肉だけど」 「そのアライグマってどこにいるの?」 「ちょっとォ、どうしちゃったのさァ慎太郎君。何を疑っちゃっているんだい?」
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