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「さあ、慎太郎君。ここで疑問だァ。それらに対して人間は何をしているのか。人間の反吐が出るような悪癖が植物の根を強くするかい? 牛の繁殖を促すかい? ノンノンノン。違うだろォ。何にも役にも立っていないじゃないか。何ならいない方が良いくらいの人が植木鉢の裏のダンゴ虫みたいにうじゃうじゃいるよなァ」
ボクは自分がいない方が良い人間だと見做して自らに呪いをかけて死霊と化した。人間は他の種族にとってはいない方が良いもの、つまり教室の中でのボクのようなものなのか。
「さあ、そこでだよ、慎太郎少年。お父さんはね、人間にも役割を与えてみようっていうって思ったわけだ。この前食べた顔のお肉。すんごく美味しかったって言っていたよね」
急に口の中が温かくなり粘膜から唾液がダラダラと溢れ出た。舌の表面を若干固めの唾液がまとい、味の記憶を想起させるように舌の表面のツブツブを刺激する。
「顔の肉は美味しかった」
認めるしかない。顔の肉が美味しいのは事実だから。あの発酵されたように凝縮された肉のえぐみが堪らなく、浣人を知った今でも食べたくて仕方がない。
「だよな。そうだよな。美味しいと感じたその時に浣人は慎太郎の役に立ったってわけなんだ。だから浣人の肉を多くの人に食べてもらって、世界中の人に堪能してもらいたいんだよなァ」
お父さんはいつの間にかボクの背後で止まって、両肩をポンスカ叩いた。
「今度また来なさい。顔の肉を食べさせてあげよう」
心がバウンドした。顔の肉の味を思い出すと鼻息が荒くなる。
「分かったよ。絶対に行くよ」
「そうだ、この前の友達もまた連れて来なよ」
お父さんは和馬君とレイチェルが仲良くなっていたと知っているのか、知っていないのか。
「どうだろう、聞いてみるね」
この日、結局お母さんはリビングに戻って来なかった。台所のシンクにお母さんの食べかけの肉じゃがが捨てられていた。排水溝のゴミ受けの中に肉片、ニンジン、溶けかけたジャガイモが詰まっていた。
お父さんは肉じゃがの残りの詰まったゴミ受けに水を当てていた。
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