新人類のためのカーニバルの始まり

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新人類のためのカーニバルの始まり

 目の前の扉がゆっくり開いた。隙間から金魚みたいなギョロリとした目が覗いた。和馬君の顔は餌を与えられなかった黒い金魚に見えた。今日は森先生がいない。先生がいると学校に来るように説教されると分かっているから、この前は無視したようだ。 「最近何しているの?」  二人でベッドに腰かけた。和馬君の部屋の中は意外にも綺麗に整頓されていた。掃除もしているのか埃も積もっていない。机の上に教科書とノートが開いて置いてあり勉強もしているように見える。 「別にいつもと変わらないよ。慎ちゃんこそ何やっているんだ。まだ人肉館の肉食べているの?」  和馬君の純粋な嫌悪感が初めて伝わった。ボクを少し嫌っているが、排除すると余計に嫌なボクを刺激すると思って部屋に入れたのかもしれない。 「あれから食べていないよ、だけど今度食べに来いってお父さんが言っている」 「まじかよ。あんなもんまた食いに行くのか」  和馬君は浣人についてどこまで知っているのか気になる。この軽蔑がどこまで深いのか知りたい。 「俺はね、レイチェルと一緒にどこか二人で暮らせないか色々調べていたんだ。あの焼肉屋から逃げねえと、レイチェルが肉にされちまうから」  ボクが黙っていると、和馬君はレイチェルとの逃避行について語り始めた。子供と浣人が二人一緒に暮らそうと思うなんて正気ではない。  ボクと河原で会った日、和馬君は弁当を食べさせた後、レイチェルを橋の下に隠して隠れ家になりそうな場所を探しに行ったようだ。  彼は美ヶ原の方角へ行き、厄除け参りで有名な徳運寺の方を目指したようだ。だが、適当な場所が中々見つからず、延々雪の積もる山道を歩いて御岳大権現の手前まで来て、ようやくプレハブの小さな廃屋を一つ見つけたと言った。  廃屋は山奥に捨てられ、錆だらけな様子から誰も使っていないと容易に分かったと言う。彼は夜が更けると人目に付かないように松本駅から山側へ進み、レイチェルを背負いながら雪道を歩いて、廃屋を目指したようだ。  さすがに浣人一人背負うのはしんどいらしく休みながら進んだため、到着する頃には夜明けになっていたようだ。  二人はその後真っ白に染まった御岳大権現から松本市を見下ろして、ずっと一緒と約束をしたようだ。ボクには到底理解のできない心境だ。そんな苦労をしてまで、浣人に何の魅力があるのか。
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