新人類のためのカーニバルの始まり

2/5
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/67ページ
 ボクはお父さんの血を引いているため、浣人を道具としか見られていないのか。そんなことないだろう。どんな人から見ても、浣人に心惹かれて生活を投げ捨てるなどあり得ない。和馬君がおかしいに決まっている。  彼の話を聞いている最中、ずっと一階の和室にある架空のお兄さんの仏壇が浮かんでいた。段ボールの仏壇が和馬君の本質を暴露している。おそらく彼も死霊の素質があるに違いない。同じく呪われているが、まだ死霊になれていないだけだろう。  レイチェルと二人きりになってからは、和馬君はお小遣いを切り崩しながら楽しく暮らしていたようだ。  二人しかいない生活での思い出があると言った。和馬君のお小遣いが底を突いた時、山を下りて薄川の近くから朱いクコの実を数粒取って来たようだ。 「レイチェルってそれまでずっとしっかりとした言葉を喋れなかったんだ。でもさ、クコの実をレイチェルに食べさせてあげたらさ、一音ずつ丁寧に『ありがとうかずまくん』って言ってくれたんだ」  和馬君の横顔を見ると真面目に泣いている。 「あんなに嬉しいことなかったよ。彼女の気持ちが、舌がないっていう障碍を乗り越えて、言葉を発してくれたんだぜ」  泣きながら目を充血させた和馬君はベッドの上で興奮してバウンドし、これは奇跡だと言わんばかりにレイチェルとの運命や絆の強さを説いた。  だが、しばらくすると声のトーンが一変した。 「慎ちゃんのお父さんが隠れ家に来やがったんだよ」  打撃が強すぎてその場で卒倒しそうになった。 「慎ちゃんのお父さんがさ、『ずっと見ていたよ和馬君』って言いながら入って来やがった。そのまま俺の目の前に立って、『君は猿くらいの知性しかないから、レイチェルに惚れたんだなあ。猿でもできる逃亡劇ってやつか』って言いやがったんだ」  無意識に和馬君の部屋の中で死霊のボクになろうとしていた。地下室に入っていなくなりたい。  その後、お父さんはレイチェルを縄で縛ってから大きめな木箱に入れて車でどこかに去って行ったようだ。和馬君は一人きりになったので、仕方なく帰宅しようと決めたと言った。 「もう学校なんか行きたくねえよ。レイチェルに会いてえよ。どうしてくれんだよお。レイチェルゥ、レイチェルゥ」  一つ妙案が思いついた。もしかしたら今後一切、あの家に戻らなくて良いかもしれない。 「和馬君。ボクのお父さんを許せない?」 「許せるわけがねえだろ」 「今度さ、お父さんからまた焼肉を食べに来るよう言われてさ、和馬君も誘ってって言われたんだ」  何を言いたいのか分からないようで、和馬君のやせ細り骨が浮き出た眉間に浅い皺が何本もできた。小鼻がピクついている。 「そこでさ、お父さんを殺しちゃって良いよ」
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!