16人が本棚に入れています
本棚に追加
/67ページ
ボク自身が言っている内容に自覚はあったが、本気かと自分に問うと百パーセント本気でもない。
ただ、このままあの家で育つと、将来浣人の焼肉屋になる可能性が高い。ボクが幾ら家から逃げようとも、森先生の言うようにボク自身で将来を選ぼうとしても、不可抗力が働いてお父さんの跡継ぎになりそうだ。
お父さんさえいなくなれば、お母さんしかいなくなる。お母さんにお金を稼ぐ能力があるとは思えないので、きっとどこかの施設に行けるだろう。そうすれば、この松本市からも去れるかもしれない。
和馬君には罪をかぶってもらうが、彼はおかしな人間なので丁度良い。むしろ罪を償う気持ちによって頭を冷やして真人間になれて結果良いかもしれない。
「冗談じゃなくて本当に殺しそうで怖いんだよね」
和馬君は睨んでいるような目つきで、口元だけ口角を上げている。
「ボクは別に冗談なんか言ってないけど」
この町にいれなくなっても何も問題ない。
「ちょっと考えておくわ。いつ行くつもりなの?」
別に決めていなかったが、期限を決めておいた。
「来週の火曜日にでも行こうかな」
約束を交わして、和馬君の家を後にした。すっかり夜になっていた。昼の長さがどんどん短くなっている。外に出て和馬君の家を振り返ると、赤や緑で垣根に電飾が飾られていた。赤いサンタと緑のトナカイがボクを笑っている。和馬君が幸せを装飾しているようで、おこがましい気がした。
翌週の火曜日になった。今日は冬至だ。他所の家はかぼちゃを食べるはずだが、ボクは浣人の肉を食べる予定だ。
十六時、いつもの待ち合わせ場所の松本駅前のロータリーで待っていると、和馬君がこちらに近づいて来た。ボクの顔を見ても表情を一切変えなかった。緊張しているのか、覚悟を決めたのか。
お互い何も言わずに自転車を漕いで松本市道を進み焼肉屋へ向かった。斜め前に和馬君の背中が見える。ボクたちがお父さんの焼肉屋で食事をしに行った日と同じ光景だ。
あの時、二人で自転車を漕ぎながら犀川で男根が取られた男児の赤ん坊の死骸が見つかった話をした。新潟県の信濃川河口で見つかった大量の死体と同じ死骸が犀川でも見つかった話だ。
心臓が凍りそうになった。長野大学で読んだ書には浣人のオスは不味いが、繁殖のために男根だけ取って植木鉢で育てている記載があった。だが、男の赤ん坊は肉や骨を肥料にするとも書かれていた。どうして川に流れていたのか。
最初のコメントを投稿しよう!