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絵に描いたような取り乱し方だった。コシのなくなった髪の毛を振り乱しながら、唇をパタパタ振るわせていた。
「さァさあ、和馬君。ここで問題だァ。この中に君の大大だァい好きなレイチェルちゃんがいまァす。さあ、この中の一体どれがレイチェルちゃんでしょおっかっ」
浣人はどいつもこいつもただただ籠った悲鳴を上げているだけで見分けなどつかない。
「ふざけてんすか。レイチェルを解放してあげてください」
素っ頓狂なアヒルみたいな声で反抗する和馬君をお父さんは笑い飛ばした。何を言っているんだこの小僧は、と言っているニュアンスが笑い声に含まれていた。
「和馬君、君は本当にレイチェルが外の世界で暮らすことが幸せだと思っているのかな? レイチェルが外に出たところで何の役に立つっていうんだ? ただの奇妙な存在でしかないじゃないかっ。
彼女は家畜として、肉は食用、臓器はドナーとして無償で提供するために生まれて来たんだぜ。それが彼女に与えられた天賦の運命なんだよっ」
和馬君はもう泣いていた。泣きながら床の上でうずくまった。見ていられなかったので、お父さんに質問してボクの意識が和馬君に向かないようにした。
「レイチェルにも運命があるんだったらさ、ボクにも運命はあるの?」
「いい質問ですねェ」
お父さんはノリノリだ。
「実は今日ここに慎太郎を連れて来たのは、慎太郎の進むべき道、運命にも関係があるんだ」
お父さんは傍にいた一人の浣人の髪の毛を掴み引っ張って引き寄せた。引っ張られている浣人は、豚十三匹くらいのボリュームで叫び出した。
「慎太郎には、この焼肉屋を継ぐ運命があるんだ。だからもう調理法も教えちゃおうと思っているんだ。ちょおっと気が早いかもしれないけどね。はっはっはっ」
お父さんは手際よく包帯を外して、全裸の浣人が露わになった。
「大丈夫だよ、和馬君っ。こいつはレイチェルじゃないから」
和馬君が座り込みながらも鷹みたいな目でこちらを見ていた。
「さあ、慎太郎君、和馬君、これからお父さんによる、全人類のためのカーニバルが始まるぞ。しっかりとその目に焼き付けて、新しい人類の在り方を身に染みて覚えるのだ」
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