カーニバルの佳境、青紫に燃えるお父さんの正義

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カーニバルの佳境、青紫に燃えるお父さんの正義

「では下拵えを終えたところから始めっぞ。浣人はきたねえからな。まずは熱湯消毒からやるんだ」  壁に取り付けてあったインターホンのような小さなボタンを押すと、背後から扉が開く音が聞こえた。振り返ると無表情な船橋さんが湯気の立ったドラム缶を台車に乗せて入った。ボクと目が合うとすぐに視線を逸らして、ドラム缶の中に見える熱湯を見つめた。 「慎太郎。亀甲縛りって知っているか? 前に家族で中国に旅行に行っただろ? その時に見た上海ガニの茹で方を参考にしてな、浣人を縄で亀甲縛りにしてから熱湯に突っ込む方法を思いついたんだ。  これがすげェんだ。実際に今から見せっから。このやり方が最も力を使わずに効率も良いからマネすると良いぞォ」  確かにボクは中国旅行の際に縛られているカニを見た。言われてみれば、カニと浣人の縛り方は酷似していた。  お父さんは浣人の細い首に縄をかけてから結び目を幾つか作り、胸や尻、腿を圧迫するように縄を通し始めた。余った縄を天井に吊るされている滑車に通した。縄の端を引っ張ると縛られた浣人は簡単に持ち上がった。 「よおし船橋、下にドラム缶を持って来てくれいィ」  無表情な船橋さんはノソノソ台車を押してお父さんの指示した場所にドラム缶を置いた。 「こっからゆっくりゆっくりだ。あまり浸け過ぎても駄目なんだよなァ。あくまでも消毒なんだから」  吊るされた浣人は太い腿や細い腕をこれでもかと振り回し泣き喚くも、状況は何も変わらない。そんな生贄を他の浣人は黙って見ている。  ジャッポンとお湯を割る音と飛沫と共に、浣人は熱湯の中に頭の先まで浸かった。すぐにまた持ち上げられて全身真っ赤になった浣人が吊るされて喘いでいた。  ふひぃびひぃふああむやぁひぃふいぃ。  髪からは熱湯を滴らせ、口から涎を垂らして両目からは涙がゾロゾロ流れ出る。生きようと本能がもがき、天井を見ている。 「後はこっから切断の行程に入るぞ。船橋、やる時になったら見せてやってくれィ」  船橋さんの無表情にドロッと絶望の灰褐色が垂れた。 「でも、子供たちには見せない方が良いんじゃないのでしょうか?」 「ハハハッ、大丈夫だ。だって俺の子供だぜ」  船橋さんはなぜかお父さんに従って、縄を刃物で切って湯気が立った浣人を黒いビニール袋に詰めていた。
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