不自然なほど大量な、男児の死骸

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 じゃあ行こうか、とボクたちは自転車で一時間弱かけて中山霊園に到着した。和馬君が腕時計を確認すると一時半ちょっと前だった。立ち漕ぎで坂道を上りながら、持って来た懐中電灯で辺りを照らした。 「ジェットババアなんて本気でいるなんて思っていないでしょ?」  懐中電灯の光を浴びた半袖の緑Tシャツ姿の和馬君の背中に声をかけてみた。もしかしたら不機嫌になったかもと思ったが、彼はケラケラ笑っていた。 「いいじゃん、いなくても。楽しいし」  何となく深夜に出かけてみたかっただけみたいだ。ボクも別にそれで構わなかった。家にいる時間を考えると毎夜出かけたって良い。  その後、ボクたちは自転車を降りて墓石の間を歩き回ったが、予想通り何も出なかった。 「やばっ、もう五時じゃん」  松本駅に到着した時には、空はすっかり青白くなっていた。和馬君は既に親が起き始めている時間だと言って、駅前のロータリーでクルクル回転し、あわあわし始めた。  三時間半後に学校で会うと、彼は予想通り親からきつく叱られたと言っていた。ボクは帰宅しても両親から何のお咎めなしだった。いちごジャムを塗ったクタクタな食パンを一枚食べて、ホットミルクを飲んでごく普通の朝を過ごした。  玄関の扉を開けてボクが帰宅して来ても、お母さんは台所で夜と同じ体勢で眠っており、お父さんはスーツに着替えてニヤついていただけだ。お父さんもいつも通り、お母さんの顔の真ん中を舐めてから出かけて行った。 「何で怒られたの?」 「何でって。普通怒られるでしょ。あんな夜中に出かけて行ったら」  ボクが首を傾げると、和馬君は元々大きな目をまん丸に開いて、マジかよと連呼していた。彼は隣の席にいた友達に、ボクの親が怒らなかった話をしていた。その子は眉間に皺を寄せてボクを遠ざけたそうだった。  この時からボクは自分の家族がおかしいのではないか、と疑念を抱くようになった。疑念という不安定な感情は徐々に成長して嫌悪へと変化する。親を嫌い、自然とボク自身も連鎖して嫌いになる。  同じ空間にいる時間が長くなり、無意識に親と自身が同族と認知する。ボク自身の価値を見出せなくなり、そもそもボクの生存そのものさえも罪悪ではないかと思い、ボク自身を消そうとする思いこそ正義だと思うようになった。  一連の思考がボクの死霊化へとつながる。ボクの自己嫌悪が教室内での周囲からのボクの評価とマッチして、誰もが望む形にまとまった。自らに呪いをかけて自主的に地下室に籠って床板からみんなを覗いている感覚だ。  
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