カーニバルの佳境、青紫に燃えるお父さんの正義

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「全く、何も分かってない、ね。今まで浣人の、研究を続けて来て、俺が、何も見て来なかった、とでも、思っている、のかな」  起き上がると片膝を立てて和馬君や後ろにいる船橋さんを石化させるように睨んでいる。道化のようにニタニタ顔ではなく、真剣な顔で僧侶が喋っているみたいだ。 「どれだけの浣人と、どれだけの猿と、どれだけの人間の赤ん坊を、殺したと、思っているんだ。俺が不毛な生殺を、繰り返したとでも、考えているかね」  お父さんは両足で立ち上がり、背中をまっすぐにして一歩ずつ和馬君と船橋さんに詰め寄った。裸の脇腹から赤い鮮血が流れ出て、足を伝って床に垂れていた。 「お前たちは、何をしたか、何か自分の、生命に、絶望するほどの、熱望をしたか。船橋、お前は、何をしたか。知っている。お前は、何もしていない。お前は、生命の、流れに従う、だけ。そんなお前、みたいな人間が、同族の、人間だって、ことに腹が立つんだよな」  お父さんは二人を壁際まで追い詰める。和馬君は途中で尻餅を着いて大きく震えながら失禁した。船橋さんは壁を背にし、お父さんに真正面から睨まれている。 「俺は、色んな死を、見てきた。でも、一つ一つの死を讃え、薄川に灯篭を流し、自らの、夢へと、実現すべき、人間社会を想い、苦痛を噛み締め、ここまで、やって来た」  和馬君は泣きながら戸を開けて逃走した。足をもたつかせながら、ギャアスカ喚いていた。 「別に反感を覚えていたわけじゃない。やり方が間違えているだけだと思っていた」  船橋さんは顔をヒリリとさせながら、すごい早口になっていた。そんな船橋さんを前にしたお父さんは、憎悪の青紫の炎を体内で燃やして、念じ殺すような口調で語りかける。
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