ようこそ、人肉館へ。

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ようこそ、人肉館へ。

   ※  夏休みが明けて二週間ほど経った日の昼休み、ボクが体を蒸発させるイメージをして窓際の自席で陽に当たっていると、後ろから声をかけられた。声の主は振り返らなくても分かる。 「聞いてくれよ。ビッグニュースなんだよ。超絶ビッグニュース」  新潟の海に浮かんだ、大量の男児の死骸のニュースに次いで何だろうか。和馬君が持って来る話は小学二年生の中山霊園の小さな冒険以来、ずっと期待している。 「慎ちゃんはさ、人肉館って知っているよな?」  もちろん知っていた。中山霊園同様に松本市内にある心霊スポットの一つだ。人肉を提供していた山荘の廃墟と言われている。だが、実態は大したところではない。見た目が典型的な廃墟で忘れ去られたコンクリートの塊であるため、心霊スポットと言われているだけだ。  人肉館の名前も、昔ジンギスカンが売りの山荘だったため、ジンギスカンの音から無理にジンニクカンと変換されただけだ。それでも分かりやすく残酷な名前から人気のスポットだった。  ボクが不安そうな顔になったからか、和馬君はイヤイヤと振って両手の手のひらをこちらに見せた。 「俺も最初は疑ったんだよ。あそこって名前だけで、大したところじゃないじゃん。でもさ、マジで出たって言うんだよ。ウチの兄貴の同級生が見たんだってさ」 「本当なの、それ?」 「本当らしいよ、全裸の男の幽霊が出るらしいんだ。だから今日の夜行ってみない?」  中山霊園に行った夜を思い出した。夜風に吹かれながら自転車を二人で漕いでいる時間は心臓がホップステップジャンプしていた。 「うん、行こう」  思わず大きな声が出た。  その日の夜、二年前と同じように深夜零時過ぎに松本駅に集合した。ボクたちは瓦屋根の家々が並ぶ市道を自転車で走った。 「慎ちゃん、あそこ。あそこだよ」  家の姿が消え、山道の中に入ってからしばらく経つと、和馬君が自転車を止めて指さした。隣に並んで自転車を停めた。彼が指した方には樹木が密生した陰しか見えなかった。 「どこ?」 「この奥にあるんだ」  ボクたちは道端に自転車を置いて、木々の間を行く。足を踏み入れると野バラが腕や足を刺した。空間に飛ぶ黒く禍々しい粒子の濃度が濃くなり、鼻の中と喉に頭髪が凝縮し絡み詰まった心地だ。 「ほらあった」  ようやくたどり着くと和馬君が懐中電灯で人肉館の外観を照らす。ヒビの生えたコンクリートの壁が浮かび上がった。光で舐めるようにゆっくり照らした。  一応名前が知られてはいるためか、廃墟として堂々としているように見えた。黒いヒビから何か不気味な物体をドロドロと出して来そうだ。
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