【真鍮とアイオライト】番外編 少年は夏空に焦がれる

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 後日談。  屋上から転落した少年は無事に意識を取り戻した。  数か月後、退院した少年はその父親と一緒に、市民センターにお礼に来てくれた。  挨拶に来た少年は俺の顔をじっと見ていたけれど、もちろん、あの日のことなんて覚えてはいないだろう。あんな状態のときの記憶なんて残っている確率は殆どないと、鈴は言っていた。俺もそう思う。  けれど、世の中には経験則だけで語れないことなんてたくさんあるんだ。  帰り際、少年が言った。 「プリン。おいしかったです! おにいさん。お料理上手ですね。ママのより美味しかった!  大きくなったら、僕のお嫁さんになってください!」  おかしいだろ!  と、ツッコミは飲み込んだ。  宇宙飛行士の中には、地上を離れることで人生観が変わってしまう人がいるというけれど、きっと、幽体離脱ってのも、人生観? 変わるんだろうな。  と。  強く生きてくれそうで何よりだが、少年の将来が心配になる俺であった。
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