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「それじゃあ、先生からのお知らせはこれで終わりです。明日、明後日とお休みですが、外出する時は車や自転車に気をつけるようにしましょうね」
先生の話し声で目が覚める。どうやら帰りの会中に、うっかり眠ってしまっていたみたいだ。
居眠りなんてめったにしないのにどうしてだろう。おかげで小さい頃の夢を見た。おばあちゃんと一緒に宝石箱をのぞく夢だ。
スカートのポケットに手を入れれば、指先がプラスチックの宝石に触れる。その感触にわたしは安心した。おばあちゃんから預かった指輪は、ちゃんとポケットに入っている。
指輪があることにほっとしていると、後ろから肩をトントンとたたかれた。後ろを振り向けば、八神くんが前を指差している。
「な、何?」
「号令。星乃、今日の日直だろ」
「あっ!」
わたしはあわてて立ち上がり号令をかける。起きたばかりでぼうっとしていて、自分が日直だということをすっかり忘れていた。
「起立、礼! さようなら」
みんながそろってあいさつをすると、先生も「さようなら」とおじぎをして教室を出て行った。ほとんど眠っていたせいで、先生が何を話していたのか覚えていない。重要なことを話していなければいいのだけど。
ぼんやりとしながらランドセルに教科書をしまっていると、突然だれかが机の上に手を置いた。おそるおそる見上げてみれば、そこには笑顔を浮かべた三戸くんが立っている。
「セイメイ君。今日こそ、ぼくと調査に行こうじゃないか!」
「三戸くん。何度も言ってるけど、わたしの名前はセイメイじゃないよ」
「知ってるとも。これは君のご先祖様にあやかった呼び名だよ。素敵な名前だろう?」
「全然。そもそもその人ってだれなの?」
わたしが勢いよく首を横に振ると、三戸くんは大げさに肩をすくめてみせた。
三戸くんは——こういうのもなんだけど——ちょっと変わっている。三度の飯よりオカルトが好きだと自負し、「髪には不思議な力が宿るらしいので本当かどうか調べたい」という理由で髪をのばしたり、明らかに子ども向けではない内容のオカルト本を読みあさったりしている。
何より人の目を気にしない。輪ゴムで髪を結んでいるかと思えば、次の日はかわいい飾り付きのヘアゴムで髪を結んでいることもある。それを男子からからかわれてもまったく相手にしていない。その鋼の心はうらやましくもあり、ちょっと困ったところでもある。
「ご先祖様にオンミョウジがいるなんてうらやましいよ。星乃家は昔、この地に流れ着いたオンミョウジの家系なんだろう。君には聞きたいことがたくさんあるんだよ」
「オンミョウジだかドウミョウジだか知らないけど、三戸くんが言うような不思議な力も持ってないし、オカルトにもまったく興味がないの」
「陰陽師だよ。道明寺は桜もちだろう。セイメイ君、君は自分の力に気づいていないだけなんだよ。ぼくと一緒に心霊スポットを調査しているうち、きっと力に目覚めるはずさ!」
「もう、そのセイメイ君って呼ぶのやめてってば」
これだ。三戸くんは自分の興味がある分野の話になると人の話を聞いてくれなくなるのだ。そのせいでわたしはたびたび頭を悩ますことになっている。
なんでも、わたしのお母さんのご先祖様に陰陽師という不思議な力を持った人がいたとかで、五年生に上がって同じクラスになってからいつもこの調子だ。
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