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「おい、三戸」
今日はどうやって三戸くんの話を打ち切るか悩んでいると、後ろの席にいた八神くんが突然立ち上がった。
「何だい、八神君」
「星乃がいやがってるだろ。変なあだ名で呼ぶのやめろよ」
八神くんが三戸くんを注意してくれたことに、わたしは少しびっくりしていた。
八神くんはあまり笑わない。ほかの男子が騒いでいても、その輪に自分から入りにいくこともない。背が高くて寡黙なスポーツマンというイメージだ。
一応わたしのお母さんと八神くんのお母さんがお友だちなので、昔は二人で遊んだこともあるけど、さすがに五年生にもなると遊ぶことはおろか、話すこともなかなかない。
そんな八神くんが今日は二回も話しかけてきたとあれば、明日は雨が降るかもしれない。
「むっ。ケンソンじゃなく、本当にいやなのかい?」
三戸くんの質問にこくこくとうなずけば、三戸くんはかわいそうなくらいしょぼしょぼした顔になって肩を落とした。
「それは申し訳ないことをした。改めて……星乃君。ぼくと共に心霊スポットへ調査に行こう!」
「それはちょっといやかな」
「なぜだ! ……あ、わかったぞ。人数が少なくて不安なんだね。よし、じゃあ八神君も一緒に行こう」
「おれもパス」
「どうして!」
三戸くんが一人でわあわあと騒いでいると、「ちょっとうるさいんだけどぉ」と言いながら、姫宮さんが八神くんと三戸くんの間に割って入った。姫宮さんは三戸くんを押しのけて、八神くんの隣にぴったりとくっつく。いつも無表情の八神くんの顔からさらに表情が消えた。
「ねえ、翔くん。こんなオカルトオタクは放っておいて、ひめと一緒に帰ろぉ?」
「いや……おれ、今日はバスケがあるから」
「えー! それじゃあ、余計にオカルトオタクの相手してる場合じゃないじゃん。ほら、早く帰ろうよぉ」
「……じゃあ、おれはこれで。姫宮もじゃあな」
すたすたと立ち去る八神くんを姫宮さんは「待ってよぉ」と猫なで声を出しながら追いかけていく。
「相変わらずパワフルだな、姫宮君は」
三戸くんは姫宮さんの揺れるツインテールを遠い目で眺めながらぽつりとつぶやいた。
確かに姫宮さんは八神くんのことになると押しが強い。わたしが八神くんにあまり話しかけなくなったのは、学年が上がって多少の気まずさを感じるようになったというのもあるけど、姫宮さんの目が怖いからというのも理由の一つだ。
「うーん、八神くんは用事があるみたいだから仕方ない。調査にはぼくと星乃君の二人で行こう」
「わたし、行くなんて一言も言ってないけど……」
「そう固いことを言ってくれるな、星乃君。調査場所は隣にある旧校舎なんだ。すぐそこだろう」
「近さの問題じゃなくて……大体、旧校舎には入っちゃいけないって先生に言われてるでしょ。入り口もかぎがかかってるから入れないよ」
「それが入れるんだ。一階にある職員室の窓は、かぎが壊れていてね。現にそこから入った生徒も何人かいるらしい」
「そんなことしたら危ないし、怒られるよ」
「たとえ危険だろうと、大人に怒られようと、ぼくの好奇心はだれにも止められないのさ。とりあえず話だけでも聞いてくれないかい? それくらいはいいだろう」
「……じゃあ、話だけなら」
このままでは一生家に帰れないかもしれない。仕方なくうなずくと、三戸くんは得意げな顔で語り始めた。
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