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1.旧校舎の幽霊看護師
「おばあちゃん。わたし、宝石箱見たい!」
「ミヨちゃんは本当に宝石箱が好きだねぇ」
「だって、キラキラしててきれいなんだもん」
おばあちゃんちに遊びに行くと、わたしは必ずおばあちゃんが持っている宝石箱を見せてもらう。
木製の三段組になっている箱の中には、キラキラしたアクセサリーがたくさんしまわれていて、見ているだけでも心が踊った。
「これはおじいちゃんからもらった結婚指輪。これはおばあちゃんの誕生日に、ミヨちゃんのお母さんがプレゼントしてくれたイヤリング。これはおばあちゃんのお母さんが残してくれたネックレス……」
おばあちゃんは宝石箱からひとつひとつアクセサリーを取り出して、わたしに見せてくれる。
ダイヤモンドの指輪にサファイアのイヤリング、それからエメラルドのネックレス——おばあちゃんのアクセサリーはどれもきれい。わたしが持っているおもちゃのアクセサリーとは違う。それがとってもうらやましい。
でも、一つだけ不思議なことがあった。
「ねえ、おばあちゃん。これは?」
わたしが指差す先にあるのはおもちゃの指輪。赤いプラスチックの宝石が本物の宝石の中に、「わたしも本物の宝石ですよ」と言わんばかりに並んでいる。
「これはおばあちゃんのお友達がくれた指輪よ」
「でも、これおもちゃの指輪だよ」
「うん。だけど、おばあちゃんの大切な宝物なの」
「えー? 本物の宝石の方がきれいなのに?」
わたしがそう聞くと、おばあちゃんは静かに首を横に振った。
「ここにあるものはね、みんながおばあちゃんのことを考えてプレゼントしてくれたものなの。だからおばあちゃんにとっては、どれもきれいな宝物なのよ」
「じゃあ、わたしもいつかおばあちゃんにアクセサリーをあげるね。そしたら、この宝石箱の中に入れてくれる?」
「もちろん。ミヨちゃんがくれるものは全部が宝物だもの」
おばあちゃんはにこにこと笑っていたけど、おもちゃの指輪を取り出すと、少しだけさびしそうな顔をした。
「おばあちゃんの指にはもう入らないねぇ」
小さなおもちゃの指輪は、おばあちゃんの指先で止まってしまっている。
「ミヨちゃんの指にならぴったりかしら」
おばあちゃんに手を差し出されて、わたしはその手の上に自分の右手を置いた。おばあちゃんがわたしの人差し指に指輪をはめる。
「ぴったりね。ミヨちゃんのかわいいおててによく似合うわ」
赤い宝石がピカピカとわたしの指で光っている。おもちゃだとはわかっているけれど、ちょっとだけきれいに見えた。
「もしおばあちゃんがいなくなる日が来たら、この指輪はミヨちゃんが大事に持っていてくれる?」
「えー。わたし、おばあちゃんがいなくなるのやだよ」
「ま、うれしい。おばあちゃんもね、いつまでもミヨちゃんのそばにいてあげたいんだけど、それはちょっとだけ難しいから」
「いやなものはいや……」
おばあちゃんはまゆを下げて困った顔をしたけど、突然何かを思いついたようにポンと手を打った。
「それじゃあ、おばあちゃんがいない間はミヨちゃんがこの指輪を預かってくれる? おばあちゃん、必ずミヨちゃんのところへ受け取りに行くから」
「うーん……それならいいよ」
「じゃあ、お願いね」
おばあちゃんはおもちゃの指輪を大事そうになでる。でもその顔はやっぱりちょっとだけさびしそうだった。
「おばあちゃんがいない間、この指輪がおばあちゃんの代わりにミヨちゃんを守ってくれるからね。だからこれだけは覚えておいて」
おばあちゃんがわたしに語りかける。だけどその言葉を聞くことができないまま、わたしの視界はだんだんと白くなっていった。
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