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昼は老舗の蕎麦屋に寄った。
ざる蕎麦もいいが、何故か冷やし中華がある店。
「いらっしゃいま…あれ、古賀さん久しぶり。珍しいじゃねぇか」
「あらホント。すっかり社会人らしくなって」
学生の頃に、友人達と良く来た店である。
よく喋る明るい大将と、優しく綺麗な女将さん。
「今日は仕事も兼ねて寄りました。これなんですが…お願いできないでしょうか?」
ポスターとチラシを見せて渡す。
「おっと、納涼花火大会ってお前ぇ、本当に復活さやがったのか?」
(させやがったって…💧)
「ええ…はい。公言通り、母のため皆んなのため、この度開催することに決定しました!」
目標と言うものは、公言しておけばやらざるを得ず、何とか成せるもの。
唯一実行した、父からの教えである。
邪道的要素も感じるが、事実でもあった。
「こらあなた、させやがったなんて失礼よ! 再開出来たら筒にでも玉にでもなってやるって、無茶な後押ししてたじゃないの」
「あれは…その…なんだ、例え話ってやつよ💦」
(例え話の意味から違ってますけど…)
「なに馬鹿なこと言ってんの。これは、もちろん協力させてもらうわ。久しぶりだけど、いつものでいいかしら?」
「ありがとうございます。えっと…はい、いつものでお願いします」
ポスターとチラシを受け取る女将さん。
「再開のお祝いに、今日はサービスするわね。あなた、いつもの一つ!」
「はいよ! しっかし蕎麦屋に来といて『いつもの』が、ど〜して冷やし中華なんだか…全く」
(いやいや💦 ど〜してあるのかが先では?)
しかも『大人気❗️』と掲げてある。
「蕎麦ばかり打っていて、たまには中華でもって、自分が始めたんじゃないの」
それが大当たり🎯したのである。
余りの人気に、テレビの珍◯景にまで登録された。
「お客様よ、さっさと作って」
「はいよ! 花火記念バージョンにしてやるか」
「そんな、ふ…普通でいいですから💦」
この大将のことである。
何がどうなるか、全く想像できない。
「それはそうとして、良く再開できたわね。お母さんも喜んだでしょう」
「はい。午前中に真っ先に寄って、報告して来ました。あんな笑顔は、久しぶりに見ました」
「そう…良かったわね、最高の親孝行ができて」
その一瞬。
微妙な感じが気になった。
「そもそも、何故中止になったのか? 良くあるのは事故ですけど、調べてもそんな記録は出て来ませんでした。当時は小さな町だったから、やはり資金不足かなと思ったんですが…」
今では企業も多く、スポンサーならいくらでも見つかる街であり、花火の大手メーカーもある。
「良く…知らないけど、一度なくなったものを、再開するのって色々と大変なものなのよ」
「確かに、今回も市長と父の力がなければ、とても無理でした。いろんな手続きや承認が必要で」
「とにかく、おめでとう。それに、ありがとうございます。私も楽しみだわ。寄付金なら出すから遠慮なく言ってね」
「大丈夫です。事前に手回しはしてあったので」
資金なしでは始まらない。
沢山の企業や商工会などから賛同を得ており、十分過ぎる程集まっていた。
周りの市や区では、幾つか開催されていて、競争意識もあった様である。
懐かしい味を堪能し、午後の配達へと向かった。
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