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あれから潤は大急ぎで病院へ向かった。
搬送先の病院どころか碧が事故にあったという報告しか耳に入っていない彼が、何故そこへ向かおうとしたのかは分からない。そもそも彼はどうやって病院へ行ったのかも覚えていないようなのだ。
もしかしたら、皆が思っている以上に彼は混乱していたのかもしれない。気付けば潤は病院の中に居たのである。
「……潤っ! ここに居たんだ、本当に焦ったよ。電話でなにも返事してくれないんだもん」
駆け足で此方へ向かってきた結弦はそう呟いて息を切らしながらも潤の袖を引っ張る。
周りに居る患者や看護師はぼーっとして少しの間立ちどまっていることに加えて年配でもない若い男である彼がTPOに合わない着物を着ているからか、当然のように注目の的にしている。
「え、あれ? い、いつの間に此処に……そうか、碧が事故に遭って、それで──」
心を落ち着かせる為、言葉を発するのに多少時差はあったが、潤は暫くすると目線と脳内をぐるぐるとさせてぶつぶつと喋り始めた。冷や汗がポタポタと床に一滴ずつ音を立てて落ち、逆に彼がパニック状態になってたおれてしまいそうだ。
そうなれば元も子もないので、結弦は必死に潤を宥めようとする。
「大丈夫、落ち着いて。まだ容態が酷いって決まった訳じゃないんだから! もうっ、東堂先輩は一体どこに行ったんだろ……?」
結弦は冷静に背中を擦りながら、潤を待合室の椅子に座らせた。流石に良い意味ではないかもしれないが、きっと由多の事も相まりこういう時の対応には慣れたのだろう。
そして、慣れた手つきでスマホをショルダーバッグから取り出すと、何度も東堂と思われる人物に電話を掛け始める。
「……なぁ、どうしよ。俺、碧が死んだりなんかしたらほんとうに──」
声は揺らいで頭の中はパニックになっているが、そんな事も関係ないと言わんばかりに口からは次々に言葉が飛び交う。
彼の状態を見た結弦は心配そうな表情を見せてからぎゅっと震えた潤の手を握ると「大丈夫だよ、碧を信じて」と一言だけ伝えた。
「あのー、東堂お兄さんはずっと君たちの目の前にいるんだけどもしかして見えてない……? それとも東堂お兄さん死んじゃったのかな?」
気不味そうに頭を掻いて東堂は問い掛ける。実は東堂、この言動から読み取れるようにずっと彼らの側に居たのだ。
ずっと二人の様子を伺っていたつもりが自分の言動と彼等の言動の辻褄が合わないのに気付き、ようやく声を掛けたのかもしれない。
「……あっ! 東堂先輩! もーっ、何処へ行ってたんですか?? 全然電話が繋がらないから心配しましたよ」
声を聞いた結弦はハッとして東堂の方へ振り返る。
まるで東堂が今まで連絡もなしに何処かへ行っていたような口ぶりだ。先程東堂の口から発された言葉を結弦は何も聞いていなかったのであろうか。
「だ、だからずっとここに……じゃなくてっ! そ、それよりも碧くんがね、これを潤くんに渡してって」
わたわたとして内ポケットから何かを取り出す。
勿論、東堂もかなり混乱していてその何かを取り出すのにも指が滑りかなり時間が掛かった。
取り出されたのは雪のように綺麗な白い色をした薄い封筒のようなもの。
潤は少し状況を飲み込めたのか、ついさっきまでダラダラと垂れていた冷や汗がぱたりと病む。
「これは、手紙……ですか?」
彼の言葉に東堂は黙って頷く。
普通なら碧の容態を先に東堂に問うだろうが、今は混乱や現状を受け止めたくない一心から碧が遺したという手紙の内容が一体何なのか気になって仕方がなかったのだ。
そうして、潤はごくりと息を飲み込みながら丁寧に手紙の封を開いた。
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