第二章

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 彩葉という女性はその優れた頭脳と童話に出てきそうな程に綺麗で美しい顔立ちから異性に慕われることが多かった。  まあ、鼻の下を伸ばして媚を売ってくる下心しかない彼等を"()()()()()"と言われても恋心なんて湧くわけがなく、嫌悪感しか現れない。  結局、大学生になるまでまともな恋愛をしたことなんて無かったのだ。  その時に出逢ったのが紛れもなく碧である。  偶々同じ学部だったので直ぐに仲がよくなり、それから一年ほど経った時にお付き合いをしたいと告白をされた。  ──今までの男は駄目だったけれど、この人なら好きになれるかもしれない……。  そう思った彼女は彼の告白を受け入れ、お付き合いをすることに決める。  でもやはりどれだけの時が過ぎようとも彼の人柄は好きになれても、()()()()にはなりえない。これ以上の行為を易易と受け入れる訳にもいかなくなった彼女は彼と別れることを心に決めたのであった。  それから数年後、彼女は勤め先の職場で運命の出逢いをすることになる。この出逢いが紗花とのものだったのだ。  純粋無垢で方言が強すぎて何を言っているか分からなかったが、優しく健気な紗花には時間も掛からずに惹かれていった。  今まで恋愛対象が同性なのかもしれないと考えたことすら無かった為、自分のセクシャリティに不安が浮かぶこともない。というか疑問すらも浮かばなかった。  それもその筈、彼女の頭の辞書にある恋愛という文字には()()()()なんて無かったのだから。  SNSで見つけた碧と潤の告白動画を社内で休憩中に見ている時の話。突然、驚いたように紗花が彼女に向かって話し掛けてきたのだ。 「あ、こんし、あてん元カレやっど!」 「え? 紗花って彼氏居たことあったんだね」  けれども周りとの微妙な価値観の違いは結局いつかは気付いてしまうもので、この他愛もない日常会話で紗花が男性を恋愛対象にしていると勘付いてしまう。  そう、たった一言で、自分が彼女と恋人になれることはないと悟った。  ──でも、紗花には幸せになってほしい。  こんな純粋無垢な願いが碧とよりを戻す決意をするきっかけとなる。おそらく、その後の少しの質問で紗花はまだ潤のことを好きだということと、潤が日本舞踊の宗家の息子だということを知ったのだろう。  暫く経ったある日、彼女はこう考えたのだ。  潤の想い人である彼に恋人が出来たら諦めて、更にはもし同じタイミングでお見合いの話がきたら紗花と結婚してくれるのではないか、と。  もちろん、潤の兄である凛が同性愛者で家から出て行ったのは全く持って偶然であった。  動画に映っていたそこは大手企業の会社の最寄り駅だったこともあり、学生時代優秀だった碧の会社を特定するのにも、有名な宗家の連絡先を知るのにも、あまり時間は掛からない。  彼が自分にベタ惚れということも分かっていたし、上記の提案なら、自分さえ碧と付き合うことを我慢したら、誰一人傷付かないであろう。  だから計画を実行するしかなかった。  はじめて好きになり、恋愛というものを教えてくれた彼女にはどうしても幸せになって欲しかったから──。
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