第二章

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「そういうことだったのか……てか、それってもしかして俺のこと──」  彼女の話を聞いた碧は苦笑いをして問い掛ける。  まさか今まで両想いだと思って続けてきた交際が、自分の片想いだったなんて考えもしなかっただろう。  その表情からはかなりショックを受けていることが読み取れた。 「うん、ずっと好きじゃなかったの」  人の心を全く持って考えずに辛辣に呟く彼女。  もう少し言い方というものがあるでは、と思うかもしれないが、彼女にとってはそれが当たり前なので多少は仕方ない。 「あ、あはは……そ、そうか」  これにはもちろん、もう終わったことにしても彼は先程よりも酷い表情である。もし潤のお見合いが成功してしまえば、彼の愛の差し出す場所はどこへ向かえばいいのだろうか。  けれども、彼女は彼のことを気にせずに話を続けていく。 「これからお見合いで紗花がどうなるかは分からないけれど、私は諦めるよ。……それに私の考えだと我慢するのは菊池くんも紗花の元カレさんも一緒だよね。紗花も一生、好きな人の一番になれないんだから誰も幸せになれなかった」 「……」  その言葉に彼は何も答えることができなかった。  潤が今後、どう恋愛するかなんて知ったものではないのに、なぜ今の段階で()()()()()()()だなんて決め付けるのか。  これからずっと潤が自分の側にいることなんて浅はかな考えは確証できないのだ。 「謝って済むことじゃないのは知ってるよ。けど、人の気持ちを踏み躙ることがいけないなんて、私が一番よく分かってたのに……本当にごめんなさい」  なんと、いきなり彼女は謝罪の言葉を述べながら、その場を立ち上がり深々と頭を下げ、カフェの床で土下座をしてしまった。  かなり勢いのある土下座に、他のお客さんが白い目でこちらをジロジロと見つめている。 「……俺だって気持ちはよく分かるから、このことは潤にも九条さんにも言わないよ。もしアイツが九条さんを選んだとしてもそれはアイツの意思なんだから」  土下座をする彼女を碧は止めなかった。  彼女なりの謝罪を悪く言ったり、根っから否定をしたりすることはしてはいけないと思ったから。 「私、菊池くんの好きな人も悪く言っちゃって……本当は二人に嫉妬してたのかもしれない。性別とか関係なしに堂々と恋愛する二人が羨ましくて……」 「す、す、す、好きな人っっ!?」  まさかそんなに直接的な単語が、彼女の口から出てくるとは思わなかったらしい。自分から潤のことが好きと言っていたのにも関わらず、動揺で口をモゴモゴとさせている。  最終的には口元から沢山のブルーベリーが零れ落ちていた。  ちょっぴり汚いが、一体そのブルーベリーはどの食事から出てきたのであろうか。 「……だからね、お見合いが終わったら、私も紗花に気持ちを伝えてみる。改めて本当にごめんなさい。そしてありがとう、()()()!」 「あ、うん……」  ──お礼を言いたいのは俺の方だよ、()()……。俺も潤に気持ちを伝えないとな。せっかくお前に勇気を貰ったんだ。  彼女も悪事を働いて二人の中を切り裂こうとしたのではなく、只好きな人に幸せになって欲しかっただけだった。  加えて、仮に彼女の考えやこれからのことを話し合う機会がなければ今一つ潤に想いを伝える勇気を出せなかったであろう。  これでまた、碧自身は独りになってしまったと思っているのかもしれないが、一見離れているようで、実際は少しも離れようとせずに、ずっと側にいる潤を忘れてはならない。
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