第二章

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 入院中、スマホに由多からのメッセージが届いた。それは、例の動画を投稿した犯人を突き止めたというもの。  本当なら犯人を病室へ連れて来てもらい、どうしてこんな事をしたのか、と問い詰めたかったのだが、どうやら由多は病気の悪化や精神的な負担を避ける為に外出することは禁止されているらしい。尚、シンとのデートは担当医からの許可が出たので特例である。  ということで、退院して直ぐの今日の出社で碧と由多はその犯人へ話を伺うことになった。場所はもう彼等の会話の場の恒例に成りつつある、話し合いにもってこいの和風カフェ。犯人には他の人には秘密で相談がある、とだけ伝えているみたいだ。  ※※※ 「ちょっと待ってくれ、由多。コイツが本当に犯人なのか……?」  耳元で目の前にいる犯人と思われる男性が聞き取れないくらいの声量でボソボソと囁きながら問う。名探偵に抜擢された彼はというと、自信満々の顔をして大きく頷いていた。  けれども、やはり()()()が犯人という彼の推理に少しばかり疑問を抱いたらしく、碧は続けて質問をしていく。 「……でも、コイツがあの動画を投稿しても何のメリットもないじゃないか」  まあ、あの動画を投稿したところで得られるのはバズった投稿と名声だけで、投稿した本人にこれといった利益はない。強いて言うならば、潤の事がずっと好きだった内山だけは多少の嫌がらせという名の自己満足は得ることが出来るだろう。 「僕だって最初は内山の仕業だと思ってた。けど、今思えばあのアカウントを見た時点で、コイツしかありえないんだよ」  先程の問いに眉を顰めてから彼は、一番大事な具体的な証拠を伏せて簡単に否定をする。よく思い出してみよう。  犯人は企画開発部の一員ということに加えて、イベントに参加した人であり、尚且つ、犯人のアカウントのプロフィール画像は仲良さげな"()()()()"だったのだ。 「……なあ、わざわざ休憩中に呼び出しておいて、なんで二人だけでヒソヒソ話してるんだよ?」  犯人は彼等の様子に痺れを切らしたらしく、遂に呆れたように話し掛けてきた。まさか、これから自分のSNSのアカウントについての話をされてしまうだなんて思ってもいないであろう。 「えっと、そういえばコイツの名前何だっけ?」  思い出したように碧は由多に向かって話し掛ける。残念ながら、こんな大きな声で言われれば、犯人と思わしき男性の耳にも届いてしまう。自分の認知度が低いことにかなり焦った男性は、由多よりも先に口を開く。 「はあ?? 本気で言ってる?? 同じ部署だし、一応先輩なんだけど。まあ、然程話したことないから別に良いけど……小餅(こもち)だよ。小さいに鏡餅の餅で小餅」  因みにだが、男性はイケメーンズの彼等の眼中になかった為、今まで名前すらも出てきていない。  しかし、別名で言えば思い出す人も中には居るのではないだろうか。また、それは碧も一緒だったみたいだ。 「あ! 企画開発部の中で唯一、妻と子を持っているおかげで浮いている()()()()()()か……!!」 「……かなり、酷い覚え方だな!?」  そう、犯人と思われる男性はなんと彼等ともあまり関わりの無い例の『子持ちの社員』だったのである。  何故、家庭を持っていて幸せに見える小餅が例の動画をSNSで晒したのか、ますます碧の頭の中で疑問が浮かび上がってきた。
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