第二章

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「……で、結局相談って一体なんなんだ? それに今思えば珍しいメンツだな、菊池に御園に俺だぞ?」  先程の碧の言葉にツッコんだ数秒後、小餅は冷静になって問い掛けた。  年齢に見合わない若々しい小餅の性格や雰囲気は良いところとも、悪いところとも取れる。現に学生時代のノリで潤に対して傷付けるような言動を取ったこともあれば、後輩である内山とは同期みたく仲が良い。  部長の趣味で勝手に選別されてしまっている採用社員達の中でどうして小餅のみが既婚者なのかというと、やはりそれは企画開発部に配属された後に結婚したというのが大きいだろう。  因みにだが、部署内で小餅以外に既婚者はいない。ただ単に恋愛に興味無い勉学一筋の人が多いということもあるかもしれないが、結婚した場合は高確率で部長の手により出世という体で他の部署に飛ばされるようだ。何とも酷い話である。  まあ、この話から分かるように小餅は部長から好かれており、小餅自身も事実を知った以降は他の部署に飛ばされぬように男性社員との距離をかなり上手く図っている。内山との距離感はもはや付き合っているのか、と疑問を抱くレベルだ。 「小餅先輩を呼び出したのは他でもありません。相談では無い、と言ったら検討が付きますか?」  碧は至って真剣な表情をして小餅に話し掛けた。きちんと詳細まで伝えないと自分の罪を察してくれないのではないか、とも考えてしまう。  けれども、小餅は彼が発した少ない文でどうして自分が呼び出されたのか、全て悟ってくれたらしい。 「……あ〜、何となく分かったよ。加藤と菊池の動画の件だろ?」  悪気も無くそう言う小餅に由多は少しばかり殺意が湧く。あの動画一つでどれだけ潤たちがあることないこと言われ続けたのか小餅は分かっていないのだろうか。  SNSの投稿は削除しても誰かに既に保存されているのは確実で、削除されていない今もこれからもネットの玩具となってしまうという事実は消え失せない。 「は? ふざけんなよ。SNSの拡散力の怖さとか匿名であることないこと語られる醜さとか……ちゃんと分かってんの?」  鬼のように怖い形相をして由多は激怒した。しかし、殴りかかったり暴れたりすることはなく、人格の入れ替わりは起こっていないようなので、主人格である本人が本気で小餅に呆れているのが分かる。口の悪さは健在なのでこれから起こるであろうことは多少の口論とみて良いかもしれない。 「うわっ、こえー……御園ってこんなキャラだったけ? さっきまでしてた天然ぶりっ子ちゃんはどこ行ったんだよ。それよりさー、お前って営業部でなんて呼ばれてるか知ってる? 実はさ──」  けれども、小餅は由多の怒った様子を見ても、一切反省をすることなんて無かった。それどころか本人へ言われているアダ名を口にして、話を逸らしてまで傷付けようともしているのだ。 「っばかっ、小餅先輩のばかっ! ちょっとでも同情した僕が駄目だったよ。後は碧がどうにかして……僕はもう帰る!」  意味深な言葉を発しながら由多は席を立ち上がり、和風カフェの出口へと走って行ってしまう。  そのときの由多の表情は決して怒っている訳ではなく、酷く悲しそうな表情をしていた。これが向かい側の席に居たことで視界に入った小餅。 「おい、一人で大丈夫なのかよ!?」  碧は大声で叫んだが、心配の声を耳にすることもなく由多はカフェから出て行った。  席には嫌な空気が漂い、小餅の頭の中には大粒の涙を目に貯めていた由多の表情だけがぽつんと浮かんでいる。  ふと、それから碧が目線を席に移すと其処には由多が犯人を突き止める為に今まで詳細に書き込んでいたメモが。  そして、罪悪感で沢山になっている小餅の表情があった。
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