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私と鈴鹿は連絡先を交換して別れた。鈴鹿は本当に近くまで来る用事があったらしくて、図書館は自販機で飲み物を買う、ほんのついでで来ただけらしかった。
「なんて偶然だよ」
私は鈴鹿のおごりのお茶を飲み干すと、ペットボトルを自販機横のゴミ箱に捨てよう――として、やめた。
とりあえず、家まで持って帰ろう、という気になった。
学習室にもどるとSNSのアプリを開いた。たくさんのメッセージが入っていた。
〈困ってます〉〈悩んでます〉〈助けて〉
そんなタイトルの羅列があった。
私は〈めぐる〉という人物を装って、この人たちを助けていた。それは確かなことだと思うし、私のアドバイスはきっと誰かの薬になっていたと思う。
けれど――。
私はメッセージをどれも読むことなく、SNSのアプリを閉じた。そして思い切ってSNSのアプリを削除した。
「よし、行くか」
私はカバンの中に空のペットボトルとスマホをしまうと、勢いよく立ち上がった。
「まずは、本を借りよう――じゃない、図書館の会員カード作るところからじゃん」
そうつぶやくと、受付カウンターに向かった。
「すみません、会員カード、作りたいんですが!」
笑顔の私に、受付のおばさんも優しそうに笑いかけてくれた。
「いつも勉強に来ていた学生さんですよね。借りてくれるのを待っていましたよ」
胸にストンと落ちる、あたたかい言葉。
ああ――この言葉ひとつが、私を少しずつ塗り替えてくれる。
「はい、これがあなたの会員カードです。ステキな本と出会えますように」
「ありがとうございます、お仕事頑張ってください」
「ありがとう」
中学生にもどりたいとは思わないけれど、あのころのような本と出会うトキメキは思い出したい。
ステキな物語や、ステキな言葉に出会いたい。
それがきっと、私を作り変える薬になるだろう。
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