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日陰のベンチに移動した。鈴鹿と名乗った少女は「私に飲み物をおごらせてほしい」となぜか譲らなかったため、言葉に甘えてお茶のペットボトルを一本買ってもらった。「意味が分からないけど、ラッキー」としか思っていなかった。
となりに座る鈴鹿は、終始ニコニコして私を見ているものだから、なんだか居心地が悪い。
「久しぶりにこっちの方にもどってきて、偶然にも会えたのがめぐみさんでうれしいです」
「そうですか」
なんだろう、居心地が悪い。こんなに好意的な目で見られるのは慣れていない。
いや、考えてみれば対人で話すのも久しぶりな気がする。
いつもSNSでばかりだれかと話していたし、家族とも会話は減少気味だった。
学校をサボりがちな私は、クラスに友だちもいないし、担任は心配するでなく怒ってばかりいる。
振り返ってみれば、ろくな人間関係ではない。
「私、めぐみさんのおかげで変われたんですよ」
「おかげって何か、した?」
「した、っていうか、言われた、です」
鈴鹿ははにかみながら私を見つめる。目を見ようとして来る視線に、思わず顔をそむけた。
「私、中学じゃイジメられてて。クラスに居場所がなくて……それで二年生に進級するタイミングで転校するのが決まってたんですよ」
「そうだったの?」
「クラスが違いましたから、めぐみさんは知らなくて当然です」
彼女はペットボトルのミネラルウオーターでほほを冷やしながら続けた。
「昼休みになると、図書室に逃げ込んでいた私に、話しかけてくれたの、覚えてないですか?」
「……あぁ、そんなこともあったかも」
だんだんとよみがえる記憶。
私はお茶をひと口飲んで「あったあった……」とつぶやいた。
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