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湖に浮かぶ島
湖の真ん中に小さな島が浮かんでいる──
その島は下の部分が少しだけ湖面に浸かって上から透明な水が滝になって流れ落ちていた。
その島は湖の水を人間が飲める様に浄化していると伝えられているが定かではない。
そこは人が立ち入る事を許されない聖域。
一度行ったら帰って来られない島。
湖の南の村で少年はそんな言い伝えのある浮かぶ島を眺めていた。
少年は浮かぶ島の上にいつか行きたいと思っていた。
ある日、湖の東にある古城に少年は遊びに行った。
古城には昔、王と王妃と息子が住んでいたが行方がわからなくなって城に勤めていた者達は引き払い荒れ放題だった。
少年は王の部屋に入った。
金目の物は盗まれて花瓶や食器が床に落ちていた。
少年は机の下に丸まった紙を見つけた。
手に取るとそれは気球の設計図だった。
紙面には素材の名前や気球の作成手順が細かく書かれていた。
少年は設計図を持って倉庫へ行った。幸い材料は揃っていた。
翌日から少年は気球の組み立てを始めた。
恐らく何度も試作するつもりだったのか材料は余分にあった。
少年は城の庭で三日で気球を組み立てた。
村では大人しく農作業をしている少年が城で気球を組み立てていたなど両親も住民も気付かなかった。
そして快晴の日──
少年は薪につけた火を大きな三つの布袋の中で灯した。
袋は大きく膨らんで浮き始めた。
気球がゆっくり浮かんだ。
少年が気球に乗って砂袋を外すと気球は一気に浮かんで風に乗った。
揺れに戸惑いながら少年は木の枝で作った操縦桿で布袋の位置を変えながら湖の島へ向かった。
島の上空に来た少年は金具をつけたロープを島の木に引っ掛けて気球をゆっくり着陸させた。
桃色や赤い花が咲く木。原色の小鳥。野原に咲く白や水色の小さな花。
湧き上がる地下水が大きな池を作りそこから四方に小川がゆるやかに流れて下の湖に流れ落ちている。
少年は気球を固定して降りた。
少し歩くと同じ形をした古い気球の残骸が転がっていた。
誰かが先に着いたのか。
少年は壊れた気球に駆け寄った。何もなかった。
池のほとりに二つの墓と仰向けになった白骨死体があった。
恐らく失踪した城の王と家族だろう。
言い伝えは少年も聞いていたのですぐに察した。
遺体と墓前に祈った少年は墓を掘り起こした。
そして壊れた気球の布袋を三枚に破ってそれぞれの骨を布にくるんだ。
島には他に人はおらず川の流れる音と鳥の鳴き声だけが辺りに響いた。
少年は布を持って気球に乗り城へ戻った。
気球が城の庭に着陸した。
少年は骨をくるんだ布ごと庭に埋めて木で作った墓標を立てて祈った。
翌朝、城の庭には墓を中心に小さな白い花が咲いた。
自宅で目覚めた少年は背中に違和感を覚えて服を脱いだ。
少年の背中には大きな白い花が咲いていた。
それを見た少年の両親は驚いた。
上半身裸のまま外に出た少年の体に陽射しが当たった。
すると少年の背中の花びらがほころんで大きな白い羽根に変わった。
少年の瞳が緑色に変わった。
少年は羽根を広げて島へ飛び立った。
それ以来少年は帰って来なかった。
少年は島の番人になったとも島の一部になったとも伝えられた。
湖に浮かぶ島からは今日も透明な水が流れ落ちていた。
(了)
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