ベランダのマル

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わたしのお母さんは、夕方6時近くならないと家に戻らない。 日中はパートに出ているし、仕事帰りには近くに住む高齢のおばあちゃんの様子を見に行かなきゃいけないからだ。 夏休みを学童クラブで過ごすわたしは、5時ごろひとりで帰ってきて家のカギを開け、お母さんの帰りを待つ。 お母さんが家に帰ってくるまでの1時間を、わたしはベランダにいるマルと話す時間と決めている。 マルの声が聞こえるようになったのはつい最近のことだ。 今年の春。小学校三年生の春に、わたしは東京からおばあちゃんのいる埼玉県に引っ越してきた。学校も変わらなくちゃいけなくて、昔馴染みの友だちとはサヨウナラ。 新しい学校、新しい先生、新しいクラスメイト。みんながわたしをもの珍しそうに見ているのが、気持ち悪くて、居心地悪かった。 隣の席の子と話してもしっくりこない。 今まで自分がどうやって笑顔をつくっていたのかが分からない。 どこかの輪に入りたいけど、入れてもらう勇気がない。かといって、話しかけてくれた子にも上手く言葉を返せない。 学校ってこんなんだった? こんなにやっかいなものだっけ。 ぼうぜんと、自宅のアパートのベランダから空を見上げていたとき、調子はずれな歌声が聞こえた。
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