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初めてマルとおしゃべりした日は、互いの自己紹介をして別れた。
その夜、仕事から帰ってきたお母さんにマルのことを訊いてみた。
「お母さん、お隣に住んでるのって、どんな人? 小さい子どもの声が聞こえるんだけど」
「お隣さんなんていないわよ。私たちがいちばん端っこの部屋だから、唯一のお隣さんは202号室よね。でも私たちが引っ越してくるのと入れ違いに退去していったから、今は誰もいないのよ。誰かが入居したら回覧板がまわってくるはずだけどね」
わたしが口を開けたまま固まっていると、お母さんが興味深げにこちらを見た。
「嫌だなぁに、こわい話?」
「そんなんじゃないけど、ベランダで誰かと話したから」
「このアパートであなた以外の小さい子って、見たことないけどねえ。まさか、また空想上の友だちじゃないでしょうね。小学校に入ってから治ったものだと思ったけど、転校でまた再発しちゃったのかしら。ああもう……どうしましょう。ツグミ、今の学校で上手くやれてるの? いじめられたりしてないでしょうね」
「してないってば。お母さん、わたし大丈夫だから」
お母さんが心配して学校の担任に電話すると言い出したので、必死になって止めた。
そして、お母さんの前ではマルの話はしないと心に誓った。
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