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五
主人の死後、沙耶子はタエと一緒に食事を取るようにしている。広い食卓で一人の食事は寂しからだ。
沙耶子は尋ねた。
「あの人の私塾に長く出入りしていた女の人って居たかしら」
「さぁ、あまりよく覚えていませんね。男の方が多かったでしょ。皆んなが煙草を吸われるから、煙たくって嫌だったわ」
講義の時間の後、一室を塾生達に開放して自由に使わせていた。
多くの塾生達が無遠慮に煙草を吸いながら、経済や政治など様々な話題に花を咲かせていた。
そんな中に混じって居座れる女が居れば、嫌でも記憶に残ってるはずだ。
(私の思い違いかしら)
思考が濃い靄に包まれたまま、食事を済ませた。
寝室に戻り、ベッドに寝転ぶ。
手には日記帳。
もう一度読み返してみても、「●●」は塾生であるとしか思えなかった。
きっと思い出せないだけで、主人を慕っていた女子生徒がいるはずだ。沙耶子は日記を捲りながら、記憶を必死に手繰った。
ふと、ある人物の顔が浮かび上がった。
一時期、訪れる女子生徒の人数が増えた事があった。
その、ある人物が塾生として加入し、出入りするようになってからだ。
どうみても男なのだが、端正な顔立ちでどことなく中性的な雰囲気を醸し出す佇まいは、とても目を引いた。
彼目的で訪れる女子生徒の数が増えたのだった。
年齢は沙耶子と対して変わらないのではなかったか。
「名前は何と言ったかしら……」
少しでも情報が欲しい。
その彼に話を聞いてみようと考えた。
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