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8.
何度も突かれていくうちに、だんだんと俺もアレックスも余裕がなくなりお互いの吐息が荒くなっていく。いつのまにか前も扱かれて俺はもう涙と涎でぐちゃぐちゃだ。
「あ、あ!んんっ、も、イク……ああ!」
「僕もだよ……く…っ!んンッ!」
ビュルルと自分の精とアレックスの精が放たれ、一気に立っていることができなくなり、その場に崩れた。
翌朝。よく眠っているアレックスを横目に、スタッフルームに戻り、身なりを整えて朝の勤務についた。バレていないか午前中は気が気ではなかったが、幸いにも誰にも気づかれていないようだ。
朝食会場となっている『フレンドシップ』で給仕をしている時、少し痛む腰を無意識に押さえていたら、篠宮マネージャーに声をかけられた。
「腰痛か? 次のクルーズ影響出ないように、整えておけよ」
はい、と答えながらもマネージャーの顔が見れない。職場であんなに乱れてしまうなんて。
朝食会場にはアレックスの姿は見えなかった。まだ寝ているのか、『ウイングススイート』は朝食ルームサービスがあるからそれを利用しているのかもしれない。
今日がこのクルーズ最終日。十三時には横浜に帰港するのだ。アレックスの連絡先はもらっていないし、俺も渡していない。一晩の相手、ということなのだろう。あのスマートな誘い方であれば、相当慣れている。葉巻を嗜むアレックスを見れないのは、残念だけど、顔を見れるのも今日で終わりかな。
朝食が終わると、乗客たちは帰港まで『ウイングスオーシャン』での滞在の記念を作ろうとあちこちで写真を撮ったり、部屋で帰り支度をしたり、記念品を購入している。そんな乗客を見ながら船内を歩く。船はもう横浜港湾内に侵入し、あと三十分くらいで着くだろう。そろそろお見送りのための身支度をしなければ。そう思っていると背後から声をかけられた。
「烏川さん」
振り向くとそこにいたのはアレックスだった。彼は唇に人差し指をあて『喋らないで』とジェスチャーしながら、俺の手にメモ紙を握らせる。
「シガーバー案内するから、連絡して」
耳元でそう呟き、手を振って客室へと消えていく。俺はぽかんとしながら、手の内にあるメモ紙を見るとメールアドレスと携帯番号が記載されていた。咄嗟のことで、俺はその紙を持ったまましばらくそこから動けなくなってしまった。
「気をつけてお帰りください。またお会いできますように」
とうとう『ウイングスオーシャン』はクルーズを終え、乗客が下船していく。乗客一人一人に声をかけながら、会釈をする。手を振る人、握手を求めてくる人。また来ると声をかけてくれた婦人や子供。みな、笑顔だ。
『ウイングスオーシャン』のクルーズでの思い出を胸に人々は帰路につく。
そしてたくさんの乗客の中に、金髪の彼を見つけた。遠くからでも目立つその容姿が近づいてくる。
「お楽しみいただけましたか?」
隣の同僚がアレックスに声を掛けると、彼は少し微笑む。
「楽しかったよ、ありがとう」
その声は同僚に答えたものなのか、俺に言ったのか。一瞬目が合い、慌てて会釈し顔を上げるともう彼の背中しか見えなかった。
***
数日経っても、何週間経ってもアレックスに連絡を取れずにいた。あの時もらったメモは財布に入ったまま。連絡できない理由はこれ以上深入りしたくないという気持ちからだ。セフレとしてアレックスが求めているなら、会わないほうがいいのは明確。乗客、しかも社長の知り合いとセフレなんてリスクがありすぎる。だけど、もし違ったら。アレックスが単純に会いたいと思っていたなら。だがそれでも躊躇してしまう。
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