それぞれの夏〜交響曲(シンフォニー)「クマゼミさんの場合」

1/1

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

それぞれの夏〜交響曲(シンフォニー)「クマゼミさんの場合」

「なんかさ、最近蝉の鳴き声がモルダウに聴こえるんだよね」 「モルダウ?」 「???」  果乃子ちゃんがお友だちに言うと、お友だちのみっちゃんとなっちゃんは不思議そうにしています。 「うん。ワシャワシャワシャワシャーってモルダウの小波みたいだなぁって思うんだ」 「音楽の時間に習ったやつ?」 「そう」 「DVDで見たとき、始まる前にバイオリンとか弦楽器が波を表している、って先生が言ってたよね」 「うん」 「でも、私、分んなかった」  みっちゃんは得意そうに、言います。 「え?私は分ったよ。果乃子ちゃんもでしょ」  果乃子ちゃんは遠慮がちに頷きました。 「えぇ?分かんないの私だけ?」  なっちゃんが不服そうに言います。 「なっちゃん、じゃあ聴いてみて。蝉の声。シャワシャワシャワシャワって。小波みたいに鳴いているから」  なっちゃんが黙り込んで、目をつむりました。  みっちゃんと果乃子ちゃんも、目をつむって耳を澄ませます。  シャワシャワ、シャワシャワ。  シャワシャワシャワシャワ。  シャワシャワ、シャワシャワ。  クマゼミの合唱です。  なっちゃんが果乃子ちゃんに微笑みました。  みっちゃんも、ニコニコしています。  三人は、仲良くモルダウを口ずさみながら、お家に帰って行きました。  クマゼミさんは今日も合唱しています。  耳を澄ませてみてください。  あなたの街でもクマゼミさんの合唱が聴こえて来るかも知れません。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加