それぞれの夏〜狂詩曲(ラプソディ)「ツクツクボウシさんの場合」

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それぞれの夏〜狂詩曲(ラプソディ)「ツクツクボウシさんの場合」

「なんかさ、あっという間に八月も半ばだね」 「4月からがむしゃらに履修登録して、単位取ってさ。楽しい夏休みが待ってると思ったのに、実験に追われてあっという間に八月半ばだよ」  美里さんと孝介くんが話していました。  二人は同じ大学の同級生でした。  同じカリキュラムをとり、共に実験をしていました。  ケンカしたり。言い合ったり。  夜遅くまで二人で実験して、ご飯を食べて。  気づいたら、ずっと一緒におりました。 「いいじゃん。」  美里さんが下から孝介くんの顔を除き込みます。  オーシーンツクツク。  オーシーンツクツク。  ツクツクツクツク、オーシーンツクツク…… 「夏の真ん中まで一緒にいてさ。多分、次の学期も一緒じゃん」  屈託なく言う美里さんに、孝介さんがふいっと顔を背けました。 「き、木々が多いキャンパスだから、ツクツクボウシ、多いね」 「桜、多いからね」  照れて少しだけドモッた孝介くんに、美里さんが笑顔で言う。 「ツクツクボウシってね、桜の樹液を好むから」 「よく知ってんじゃん」 「いちお、リケ女だから」  ふふふ、と笑う。 「キャンパス満開の桜は見たし」 「ツクツクボウシも堪能してるし」 「どっちがツクツクボウシの鳴き声が上手いか競争しよう」 「え?やだよ」 「いーじゃん、行くよ。 オーシーン、ツクツク、オーシーン、ツクツク。 オーシーンツクツク、オーシーンツクツク。 オイョース、オイョース、ジュウ」  美里さんのモノマネに、孝介くんが笑い出す。 「こまかっ。細かすぎて伝わらない!」 「何よ、めっちゃ上手いのに」 「自分で言うなよ」  美里さんと孝介くんの側の木で、ツクツクボウシが鳴き始めました。  
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