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“ヴァルプルギス”……それは対魔女用に開発された最終兵器。 その全貌は公式には明らかにはなってはいないが“それ”から放たれる地獄の火炎には、全てを焼き尽くす力があるとされている。 ヴァルプルギスを所持、管理している対魔女特殊部隊“山羊(ヤギ)”その中でも一際優秀な人物、分隊長、鷲尾 龍二(わしお りゅうじ)大学教授、鷲尾 晴人の実兄である。 彼は唯一、過去の魔女集会サバトにおいてオルギアを倒す寸前まで追い詰めた人物だった。 2030年8月3日AM2時 「こちら第二部隊!新宿の魔女と交戦中!」 「魔女の数が多すぎる為、救援をお願いします!」 「こちら第五部隊、大阪道頓堀にて魔女が出現!かなりの数だ」 「名古屋支部からトウキョウ本部へ!大量の魔女が出現しました!山羊の出動を要請します」 「……どうなってるんだ、一体」 全国各地から本部へ入る救援要請に、分隊長の龍二は困惑していた。時間を合わせたかの様に、全国で一斉に大量の魔女が出現したのだ。 「鷲尾分隊長!」 龍二の元に駆け付けたのは、部下の矢作 光太郎(やはぎ こうたろう)。 「魔女達が本部に向かっています!」 「遂に来たか……」 「よし、我ら第七部隊は本部の死守」 「本部からヴァルプルギスの使用許可が下りた。すぐに準備しろ」 ※ ※ ※ ※ 「鷲尾先生……何してるの?」 「映写機を武器に改造してるのさ」 「ほら、こうやると弾が射出される」 「ダダダダダダ……」 晴人が映写機にある持ち手のクランクを回すと、マシンガンの様に連続で弾が発射された。 「わぁ!先生、凄いじゃん」 「だろ?でもこれは魔女を殺す武器じゃないんだ」 「弾は注射器になっていて、切子ちゃんのアルビオンブラッドを少しずつ入れてある。魔女になった女の子達を、この弾丸で救うのさ」 「そうなんだ……」 理子は映写機を眺め、少し悲しそうにした。 「でも先生……危ないんじゃ……」 「危険を伴わない世界の救い方なんて無いだろ?」 そう言って晴人はニッコリ笑い、改造した映写機を肩に掛け、バイクにまたがった。 「もし山羊にヴァルプルギスを使われると、魔女はみんな殺される」 「もしかしたら、切子ちゃんも……」 二人は黙り、静まり返った時間が流れる。 「じゃあ……ちょっと行ってくるよ」 「うん、また映写機で授業してね」 「私、先生を待ってるから……」 それを聞いた晴人はまた笑顔になり、嬉しそうに頷いた。 「へぇ……西山さんも、ロマンが分かる様になったじゃないか」 「まぁ……映写機はもう使えないけど」 理子が晴人の顔を見て何かを言おうとした時、晴人は右手を上げ、バイクのエンジン音を響かせて遠くに消えて行った。 「先生……必ず帰って来て……」 理子は晴人から預かった最後の一本、アルビオンブラッドの入った瓶を握りしめ、そう願うのだった…… 「待ってろよオルギア……必ず切子ちゃんは返してもらう」 「そしてもう誰も殺させない……」 テールランプの尾は、誰もいなくなった首都高速をなぞり、決戦の場所、トウキョウ都心部へと向かった。 そのころ、山羊の本部には晴人の兄、龍二が部隊を率いて既に到着していた。 「鷲尾分隊長!魔女が来ました。もの凄い数です!」 「よし!正面から迎え撃つ。直ちに隊列を組み直すんだ」 龍二がライトを照らすと、防護壁を乗り越える黒い塊が見えた。それは一つの生き物の様に集合し、うごめいていた。 「来たぞ!撃て!」 マシンガンの火花に照らされ、目の前に現れたのは黒いローブを着た魔女達だった。その火薬の煙を突き抜けるように魔女達が一斉に隊員に襲いかかる。 「うわあああ!クソ!」 一人、また一人と魔女の圧倒的な力によりねじ伏せられ、黒煙の中で隊員達は倒れていった。 「くそ!なんて数だ……」 龍二は弾を装填し、必死にトリガーを引き続けるが、魔女の素早い動きに翻弄されていた。 「鷲尾分隊長!ヴァルプルギスが到着しました!」 そう叫び、部下の光太郎隊員が本部入口を指さした。 龍二が振り向いたその先には一人の黒髪の青年が立っていた。 −−彼の名はヴァルプルギス。対魔女用の特殊兵器だ。 魔女がウィッチと呼ばれるのならば、彼はウィザードとでも呼ぶべきか。 彼の特殊能力は火炎。オルギアの血液を元に作り出された特殊な血液を沸騰させ、体内温度を急激に上げることにより、大気中の酸素を発火させる。 彼の指先から放出される炎は1000℃を超え、この世の全てを焼き尽くすのだ。 「ヴァルプルギス……たのんだぞ」 「あーあ……」 「またサバトかい?僕はせっかく気持ちよく寝てたのに……」 眠そうに応えるヴァルプルギスの首にはチョーカーが取り付けられており、龍二の腕時計では、彼の精神状態が分かるようになっている。 龍二は時計を見て計器の色がブルーになっているのを確認した。 「ねえ……龍二……」 「どうした?ヴァル(プルギス)」 「あれ、三分で片付けるから、また沢山眠っても良い?」 「三分?冗談だろ……この人数をか?」 眠そうに目を擦るヴァルプルギスは右手を上げ、手のひらの上で火炎を作り出した。 その丸い火炎は数秒で人の体くらいに大きくなり、その摂氏温度は、近くにいるだけで龍二隊員の防弾チョッキがプスプスと煙を上げるほどだった。 「やばいやばい、第七部隊隊員に告ぐ!すぐにこの場から離れろ!」 龍二の無線に反応するように、第七部隊の隊員達は一斉にその場から逃げた。 「ふふふ……見てみて切子……」 「夏にピッタリな綺麗な花火が見れるわ……」 近くのビルの屋上からその様子を見ていた少女は、嬉しそうにパチパチと手を叩いた。 「あいつら魔女を何だと思っているのかしら……ねぇ?切子」 隣には病院から連れ出された妹の切子が、両腕を縛られ座らされていた。 「お姉ちゃん……まさか、あの魔女達って」 「そうよ、あの中には山羊達の奥さんや娘が紛れているわ……」 「可哀想に……ふふふ」 「なんて事を……酷すぎる……」 切子は涙を流し、その壮絶な現場から目を背けた。 「オルギア……あなたには必ず天罰が下るわ」 「鷲尾先生がこっちに向かっているのよ……」 「先生は必ずあなたを止める!」 「あんな男に何ができるのよ!あなたの血液も無しに私に勝てるわけないじゃない!」 オルギアがそう叫ぶと辺りは一瞬明るくなり、山羊本部の敷地内ではヴァルプルギスの火炎球に燃やされる魔女達の悲鳴が聞こえた。 「正に火刑に燃やされる魔女ね」 「歴史は繰り返されるわ……」 オルギアがそう呟いた時、ふと彼女は自身の右胸に注射器が刺さっている事に気付いた。 その注射器には白く輝く液体が入っており、ビルの照明に照らされユラユラと揺れていた。 ラスト・ウィッチ3 終
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