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「やったじゃない! まあ、いつか成功するって信じていたけどね」
妻は、私が久々に作った料理を食べながら喜んだ。
「それ、本当に思ってたのかよ」
「もちろん!」
楽しい食事ができて幸せだった。
これまでは一緒に食べていても研究のことが頭の大半を占めていたため、食事の時間を楽しむどころではなかったのだ。
「どう? うまい?」
「うん。美味しい。いい感じだね……あの、実はね」
そこで妻が食事の手を止めた。
「何? どうした?」
「佐藤くーん、入ってきてー!」
妻がドアの向こう側に向かって叫ぶ。
とても驚いた。
なぜ佐藤のことを知っているのだろうか。
タイムマシンの開発に成功したことは喋ったのだが、佐藤の存在はまだ言っていなかったのだ。
なぜ、伏せていたのかというと、自分一人でやり遂げた感を出したかったからである。
限界まで妻の尊敬の念を引き出したかった。
つまり、『自分一人でタイムマシンを作った凄い俺』をアピールしたかったのだ。
佐藤の存在は必死に隠してきたから、お互いに面識がないはず……。
「はーい!」
佐藤がドアの向こうからやってきて、私たちのいるテーブルへとニコニコした表情でゆっくりと歩いてくる。
「どういうこと?」
妻に尋ねた。
「この子ね。私が作ったの」
「は?」
「助手の求人出したの知らないわけないじゃない。私フォロワーなんだから」
「え、まあ。えっ、でも、つまり、それって……君が佐藤を作って送り込んだってこと?」
「そういうこと! この子は『潜在能力を限界まで引き出すロボット』の佐藤くん! あなた用に煽りレベルを高めに設定したのが上手くいったみたいね。私も元発明家だから、何かの形で協力できたらな、って思ってたんだ」
妻とは同じ大学で出会い、同じ研究をしていた。
飽きっぽい性格で仕事を転々としているため、現在は発明とは関係ない仕事をしているのだが、知識と経験は充分に持っている。
「いったい、いつどこで作ってたんだよ?」
「あなたが研究所にいるときに、私の部屋で作ってた。最近、全然この家に来なかったでしょ? 研究所に閉じこもってばかりでさ。だから、佐藤くんを作る隙はいくらでもあったよ」
「へ、へぇー」
「じゃあ、さっき佐藤と二人で百年前に行ってきたのも知ってるんだな?」
「もちろん! 全部知ってます! 本当、嘘つきなんだから。自分一人でタイムトラベルしてきたみたいな話してさ」
「ごめん!」
妻はサプライズ好きな性格で、昔から私を楽しませるのが好きだった。
「なんで俺のこと黙ってたんすか? あっ、もしかして自分一人でやり遂げた感を出したかったからですか?」
佐藤がニヤニヤと笑う。
「ち、違うに決まってるだろ!」
私は全力で否定した。
「でも、その反応は絶対に……うわっ! 何だ?」
突如、佐藤が叫ぶ。
ほぼ同時に私と妻も思わず「わっ!」と声を出した。
建物の外から大きな音がしたからだ。
音が繰り返し鳴り続ける。
「この音は……」
私は佐藤の顔を見た。
「ええ、タイムマシンが爆発した音でしょうね」
佐藤が深くため息をつく。
「またやり直せばいいじゃない。二人で協力してさ」
妻は他人事のように笑う。
「ずいぶんと簡単に言うな」
「そう? まあ、大丈夫じゃない?」
冷静な様子の妻に腹が立ったが、とにかく私たちはタイムマシンの状況を見るため、大急ぎで外に向かった。
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