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「またお前か もう帰ってくるんじゃないよ」
「そんなこと言わないでくださいよ閻魔様 その台本には全てが書いてあるんでしょう? 私がどんな思いで生きて、どんな所業を為して死んだのか なら一途に惚れてるこの気持ちだってご存じでしょうに」
「人と鬼とは一緒になれん」
「その答えを聞くのも何回目だか 数え切れないほど振られて悲しいですよぉ」
「ふん それでもめげずに何度でも告白してみせると思っている癖に」
「あらやっぱりその台本には全てが書かれているんですね」
「うるさいうるさい 後にもわんさか亡者がいるんだ無駄話なんてしてられんわ 今回の判決だがな、ちょうど転生だ またか」
「えぇ 極楽に行ってはアナタに会えず、かといって地獄ではどこか遠くに閉じ込められてしまう だからちょうどよく善悪つかずの人生を送って転生となるよう調整したんです」
「それじゃあ後はいつも通りだ どうせここまで素通りで来れたのだろう」
「もちろんでございます ついに案内役の鬼様もつかなくなりまして 地獄の入り口から三途の川、そしてアナタ様の待つ審判の館まで1人でテクテクと歩いてきました」
「そんな気軽に地獄を散歩するな」
「奪衣婆様ともすっかり仲良くなりまして 道中に居る鬼様達の顔や名前も覚え始めた頃ですよ」
「なるほど、道理で下から突き上げがくるわけだ」
「と、いいますと?」
「お前を地獄で働かせてやれとしきりに言われるのだ あんな良い子はいないとな」
「まぁ嬉しい それなら私も喜んで」
「いいやダメだ 地獄には様々な法がある 下手に破って前例を作るわけにはいかん」
「愛しいアナタがそう言うのならば仕方ありませんね しばらく現世に戻りましょう それではまた」
「おう またな」
慣れた足取りで部屋から出ると転生待ちの館へ向かう
そこで必要な手続きが行われるのを待ち、また現世へ戻るのだ
そんな背中を見送って閻魔大王はホッと一息
緩まないように固まりすぎた顔をガシガシとほぐす
気を利かせて離れていた従者の鬼達もワラワラと戻ってきた
「大王様 やっぱりあの子地獄で雇いましょうよ」
「そう簡単に言ってくれるな 地獄ができて以来脈々と受け継がれてきた法を変えるのは容易なことではないのだ」
「でも何回も転生させるほうが可哀想ですよ」
「確かにな 最初はこんな鬼ではなく人と結ばれ幸せになってくれればと思っていたんだが」
「それもわかりますがここまで一途なら答えてあげましょうよ きっと何かしらの運命なんですって」
「死を司る地獄の住人が気軽に運命など口にするな 我等はあくまで中立に捌く法の使者 だからこそ法は遵守せねばならん」
「そんなぁ」
「そういえば、最近亡者が増えているが地獄の運営管理は追い付いているか?」
「結構余裕ですよ 亡者は増えてますがまとめて管理できてますし」
「そうか人手不足で大変か そうだろうそうだろう な?」
「……はい?」
「よし ならば」
「いやあの」
モゴモゴと喋りかけた鬼をギロリと睨んで目で黙らせる
机の引き出しをガサガサと探り、目の前にドサリと紙の束を置いた
「大王様、これは?」
「署名を集める嘆願書だ 昨今の情勢を鑑みて人手を増やしてほしいという内容のな」
「ほぅ」
「そうすると儂の手伝いを鬼にしてもらうのはちと無駄な気がする 鬼にはもっと他の仕事を回した方が効率がいいのではないかと少し思う」
「はぁ」
「そこでな、儂の周りで細々とした手伝いをしてもらう従者を新しく雇おうかと思うのだ」
「……!!」
「いろいろと調べて取引した結果、地獄で働く鬼達の5割から要望があれば雇ってもよいと どうにかそこまで漕ぎつけた だからこの紙に署名を集めてこい」
「いつのまにそんな事を」
「秘密裏に進めていたからな そのせいでだいぶ時間がかかってしまったがなんとか間に合った」
「じゃあ、この案件を急いで進めちゃいますね 人手不足で大変ですから転生待ちの亡者達なんてちょっとほっときましょうか」
笑いをこらえて真剣に白々しい茶番劇を演じる
奪衣婆を筆頭にあの子を慕う者は多く、5割どころか余裕で8割は集まるだろう
今日だけは恋のキューピッドとなるべく鬼達がバタバタと走り回る
何度でもいつまでも恋をしている健気なあの子のために
素っ気ない冷酷朴念仁かと思いきや着実に準備をしていた愛すべき我らが大王のために
枯れた苦しい地獄の底にもようやく春が訪れるのだ
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