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8.失敗した科学・・・宇宙エレベーター
地上から静止衛星の軌道までハシゴをかける、動力で行き来するエレベーターを最初に構想したのは、アーサー・C・クラークだ。
第2次大戦の頃、通信の部隊にいて、不思議な電波ノイズを探っていた。で、見つけたのは月の反射電波だった。約2秒遅れで来る電波エコーは、アナログの暗号通信には大きな問題だ。ドイツ軍はFM変調方式を開発して、通信から月の反射ノイズを除去する。
クラークは月より近くの衛星軌道に反射物を置き、長距離の通信に使おうと考える。高度3万6千キロの静止軌道なら、3機の反射物で全地球をカバーできると考えた。
戦後、クラークはスリランカに移住した。赤道に近い場所だったので、そこから静止衛星の軌道までワイヤーを垂らせると気づく。自身の小説『楽園の泉』の中でアイデアを披露した。
物好きな数学者は、長さ7万2千キロの『針金』の重心を高度3万6千キロに置いて立てたら、力学的に安定すると計算した。
が、この計算には月の引力、太陽の引力が考慮されていない。『針金』は置かれた瞬間から、よじれ、回転し始め、バラバラに分解するはずだ。
もうひとつ問題があった。地球の表面を真空に見立てて計算した。対流圏における風の影響が考慮されていない。
そんなこんなで、宇宙軌道エレベーターは単なる夢物語になりかけた・・・
21世紀になり、炭素繊維が工業素材として発達する。
当初は、レーヨンとかの化学繊維を真空窯で蒸し焼きして・・・間違いで失敗した。けれど、条件が整えば、引っ張り強度がある繊維が取れた。樹脂で固めて圧縮強度を、炭素繊維で引っ張り強度を、鉄筋コンクリートの原理で飛行機にも使われるように。
炭素繊維の構造の研究が進み、ナノカーボンチューブなる結晶に近い素材が現れた。炭素原子がチューブ状に連鎖したものだ。
鋼鉄の100倍以上の引っ張り強度を持ち、とても軽い。計算の上では、静止衛星の軌道からワイヤーを地上まで垂らせる。
宇宙エレベーターが現実に見えてきた。
クラークは小説の中で、ワイヤーの素材をダイヤモンドと書いた。カーボンと元素は同じだ。予言のようにも感じられた。
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