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さあ、いよいよ本格的に宇宙エレベーターを建設しよう。
大事なのは、エレベーターの安定だ。地上から高度3万6千キロへ上がるまで、乗り物酔いにかからないくらいの乗り心地が必要。
エレベーターカプセルの重量が小型ジェット機と同等の30トンくらいとしよう。3万6千キロは1時間で移動できる距離じゃない。中で数日過ごせるくらいの設備が必要だ。せいぜい10乗りくらいか。
高速で動くカプセルを安定して支えるワイヤーには、せめて1キロメートルあたり100トンくらいの重量が欲しいね。長さ3万6千キロだから、計360万トンだ。ワイヤーとは書いたが、1本のロープではない。複雑に織り込まれたトーラス構造の物になる。
次に、月や太陽の重力の影響を排除して、ワイヤー全体を安定させるためには、システム全体の重量の90パーセント以上を高度3万6千キロの静止軌道に置きたい。太陽系の惑星軌道が安定しているのは、太陽系の全質量の98パーセントが太陽に集中しているからだ。つまり、静止軌道に3600万トンくらいのプラットフォームを置いて、そこからワイヤーを地上に垂らすことになる。『機動戦士ガンダム』のルナツーよりは小さいかも。
プラットフォームには強力な姿勢制御装置があり、全体を1日で1回転させる。常に同じ面を地球に向けさせる。こうしないと、エレベーターは自己分解してしまう。
従来の人工衛星に比べれば、圧倒的な大きさになる。が、ものは考えよう。プラットフォームを地上まで垂らすワイヤーの製造工場とすれば良い。ワイヤーの経年劣化を考慮するなら、工場は小さいながらも常に稼働していたい。地上から高度100キロくらいまでは、大気との摩擦で劣化が早いはずだ。
現在、日本で開発中のH3ロケットでは、静止軌道に送れる質量は6.5トン程度になる。600万回ほど打ち上げれば、プラットフォームとワイヤーの製造工場が作れるね。(太平洋がH3の残骸で埋まってしまうかもだが、小さな問題である)
なんとか、宇宙エレベーターの建設に目処が立ってきた。
が、クラークが構想した頃には無かった問題がある。現在は、地球の低軌道に人工衛星がワンサカ飛んでいるのだ。高度100キロから200キロあたりが、特に混雑している。高度250キロには国際宇宙ステーションがあり、高度400キロにはハッブル宇宙望遠鏡もある。ロケットの破片など、デブリは数え切れないほど。
政治的な問題を持つのは、アメリカ軍が運用するGPS衛星群だ。イーロン・マスクのスターリンク通信衛星もあるぞ。
アメリカ軍やイーロン・マスクが利権を手放してくれるか・・・ありそうにない。
何らかの大災害でも起きて、これらの人工衛星が全て無くならないかぎり、宇宙エレベーターは低い高度までワイヤーを垂らせない。
無理矢理に垂らしたら、ガツンガツンと衛生やデブリが衝突して・・・数年と経たずにワイヤーはちぎれて落ちる。
こうして、技術的可能性とは別の問題で、政治的とか経済的とかの障害によって、宇宙エレベーターは実現不可能と言うしかない。
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