1.四次元世界と向こう側

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 19世紀、光学顕微鏡が発達した。写真術と合わさり、数々の発見がなされた。  が、いくら顕微鏡の倍率を上げても、原子は見られない。19世紀末には原子の内部構造が科学のテーマのなり、内部を覗こうと努力が始まった。  20世紀、電子で原子の内部構造を見られるようになると、別の疑問が提示された。  なぜ、光は原子の内部に入れないのか?  なぜ、電子は原子核の内部に入れないのか?  光が進む経路や速度は空間の構造に依存する。プリズムを通る光が屈折するのは、プリズムの外と中で空間の構造が違うからだ。  原子の内部は空間の構造が違うため、光は原子の内部に入れない。原子核の内部は、また空間の構造が違うので、電子は内部に入れない・・・かもしれない。  そのアイデアは良さそうな香りがする、とアインシュタインは言った。かくて、素粒子の振る舞いを記述する『力』は、フレーバーなどと呼ばれるようになった。  さて、原子の中の空間を、どう数学的に表現すべきか。外の空間と統一的に描くためには、空間が四次元では足りない。  原子の中では空間を五次元として、原子核の中では・・・さらに六次元としてなら、数学的に矛盾無く構築できそうである。  20世紀の末、原子核を構成する陽子と中性子の内部構造が問題となった。しかし、どんな素粒子をぶつけても、その内部は覗けない。原子核の内部と陽子や中性子の内部では、また空間の構造が違うらしい。  クオークを矛盾無く説明するため、新たな数学が必要になった。他の素粒子とも合わせ、26次元の空間を提唱する学者も現れた。  ここに至って、科学は自己矛盾に陥る。  観測可能な事象を研究する学問、それが科学だ。が、観測不能な素粒子の内部構造を類推しようとしている。  また、より単純な究極粒子を求めるはずの素粒子研究が、複雑怪奇な数学を駆使しようとしている。  なぜ、かくも宇宙の構造はミクロからマクロまで複雑なのか?  ビッグバンの宇宙開闢より、宇宙空間は何度か相転移を起こした。その度に、構造が多層的に複雑化した・・・と考えるしかないようだ。  今のところ、インフレーション理論が良さそうな香りがする。インフレーション期の始まりと終わり、合わせて2度の相転移を設定できる。  インフレーション期の空間構造を突きとめられたら・・・ノーベル賞は間違いないね。光速が数万倍も速かった・・・これくらいは分かっている。光を速く伝える空間構造は、とてもロマンチックかもしれない。
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