大きな口の熊男

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大きな口の熊男

「あっ! や、まってライ!」  両手を上げて呆然としている私をそのまま押し倒し、両脚の間に身体を割り込ませたライはやんわりと体重をかけて私を抑え込んだ。 「勝負は勝負だ。俺の勝ちなんだから好きなように触るぞ」 「なんでよ! そんなのつまらないでしょ!」 「いいや。ずっと我慢してきたことが出来るんだ。こんなに楽しいことはない」  肌着だけになった私の身体に、ライはゆっくりと視線を這わせる。  見られていることにどうしようもない恥ずかしさが込み上げてきて、両手で思いっきりライの顔を遠ざけようと押すと、片手で両手を纏めてシーツに押し付けられた。 「こら、邪魔するな」 「やだやだやだやだ! 恥ずかしいから駄目だってば!」 「なんで恥ずかしいんだよ」 「だってどうせ私のこと子供っぽいって言うもん! そんなの聞きたくない! やめて!」  身を捩ってライの身体の下で逃げようとしても、全然ビクともしない。決して強く抑えられているのではないのに、どうなっているんだろう。  悔しくて恥ずかしくてじわりと涙が浮かんだ。ライは慣れているだろう。沢山きれいな女の人と付き合ってきて、私みたいなちんちくりんで子供みたいな幼馴染なんて興味もないはずだ。面白がられるなんて絶対に嫌だ。揶揄われるなんて、絶対に嫌だ。私は、いつだってライに必死なのに。 「……泣くなよ」  ライが低い声で静かに呟く。 「泣いてない」  顔を背け、頭上で固定されている自分の腕で隠す。  いやだいやだいやだ。こんな事で、また子供だなんていわれたくない。   「……思ってない。子供だなんて思ってない」 「……嘘つき」 「嘘じゃない。……ほら」  太腿に、硬いものがゴリッと押し付けられる。その硬さと熱に息をのんだ。 「まだ触れてないのに……こんな風になるのはお前だけだ、ユイ」 「……なに、言って……」 「お前の見合い相手」 「え?」  その言葉に、背けていた顔をライに向けた。思っていたより近い距離にいるライと目が合う。緑の瞳の虹彩が揺れて、じわりと黄金が滲んだようにきれいな瞳だ。 「俺だよ。俺が、お前の実家に申し込んだんだ」 「…………え?」 「だから早く実家に帰れ。そしたらさっさと婚約する」  ちょっと待って、どういう事? 展開が早すぎて情報が多すぎてもうついて行けない! 「お前を俺以外の男に渡すつもりはない。……俺の知らないところでもう誰かのものになったみたいだが、そんなものすぐに忘れさせてやる」  不穏! 言葉が不穏で良く分からない! これは嬉しいはずじゃないの!? なんで脅されてるみたいな雰囲気に!? 顔? 顔のせい? 人殺しそうな顔で睨んでるから?   「ら、ライ? 待って何か……」 「もう待たない。ここからは俺の番だからな」  そう言うとライの顔が近付いてきて、視界を覆った。唇に柔らかく何かが触れ、ちゅっと音を立てて離れた。  瞬きもせずに視界いっぱいに映し出されたライの瞳を凝視する。  ……今、……口づけされた?  驚いてはくはくと口を開け閉めしていると、また口付けが降ってくる。何度も何度もちゅっと音を立てて離れていく唇を目で追って、すぐ目の前のライの瞳を見る。その表情は揶揄ってなどいない。ギラギラと獲物を狩る獣のように私を狙っている。   「大丈夫だ、俺なしじゃいられなくなる。今までの男なんて目もくれなくしてやるからな」  ああ、私、食べられるんだ。  そう思った瞬間、その大きな獣は口を開けて私を飲み込んだ。  *    ライの分厚い舌が口内を撫でまわす。舌先を擦りつけ私の上顎を舐め上げ、奥に引っ込んでいる私の舌を絡め取りじゅうっと吸い上げた。苦しくて顔を背けると、ライに差し出したかのような首に噛みつかれた。首筋に優しく歯を立て、舌を這わせてじゅっときつく吸い上げられる。  頭上で縫い留められたままの両手はどんなにあがいても解けない。  ライの空いている方の手が、私の身体を弄り出した。  大きく熱い掌が、腰を何度も擽るように撫でて、その刺激に身体が跳ねる。するりと背後に回った手が器用にコルセットの紐を解き、胸がふわりと楽になった。  シュッとコルセットが抜かれて、ベッドの外へばさりと落ちる。 「ら、ライ!」 「……着痩せするんだな」  私の肌に触れるライの掌が熱い。腰を撫で、ゆっくりとその手が胸へとたどり着く。  ふわっと柔らかさを確かめるようにライの指が胸に沈んだ。 「ふあっ!?」 「かわいいな、感度いい……」  ライが胸元に顔を寄せて胸の谷間に口付けを落とす。またきつく吸われてそこを見ると赤い痕が散っている。やわやわと胸を大きく撫で、大きく口を開いて胸に吸い付く。唇で食まれ舌で嬲られ、やがて頂に辿り着いたライの唇が、ちゅっと敏感な先端に口付けを落とした。   「あっ!」  聞いたことのない自分の声が響いて身体が震えた。口元を押さえたくても手は拘束されてるし、感じたことのない感覚に耐えられなくて、けれど何かにしがみ付きたくても出来ない。  私の声を聞いて気をよくしたのか、ライは片手で胸の頂を摘まみカリカリと引っ掻くように刺激して、もう片方の頂きを口に含んで激しく舌で弾き吸い付いた。 「……あっ、んん! らい、らい! 手をはなして!」 「駄目。抵抗するだろ」 「しない! しないからおねがい! らいにつかまりたいの!」 「……!」 「らい、らい……!」  視界が潤んでよく見えない。それでもライに話を聞いて欲しくて何度も名前を呼んだ。ライのぐっと息をのむ音がして、手首を押さえる手が緩んだ。  すぐにライの首に腕を回してしがみ付く。 「やだ、なんかおなかがムズムズする……!」  ライの首に顔を埋めて、ほとんどめそめそと泣いてる状態で訴える。もう、これ以上どうしていいか分からない。知らなかった感覚が私をおかしくしてしまう。 「……ユイ? お前……初めてか……?」
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