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二日ほど胃腸の具合が悪く、僕はアパートから外に出なかった。体を起こすことができず、ただぼんやりと天井を見ていた。
なんとか枕元にあるスマホに触れ、ロック画面を見ると店長から電話が何回か来ていた。店長がらみの表示を無視すると下の方にひなまつりからのDMが来ていた。僕は恐る恐るそのメッセージを開いた。
ただ動画のURLが貼られているだけで、主旨は分からなかった。URLをタップすると「動画は削除されました」と書かれてあった。一体、ひなまつりは何を僕に見せたかったのだろう。
胸騒ぎがして、ヤフーニュースを見るとトップに「女子校で三人死亡」と書かれてあった。まさかと思いつつ、僕は気力を振り絞って記事を読んだ。
記事によるとM市にある女子校で少女(十五)が教室にいた同級生を次々に切りつけたらしい。女子生徒三人が死亡、止めに入った男性教諭が重傷という大惨事になった。少女は警察に逮捕され、取り調べを受けているそうだ。
少女は取調べに対して、「人間のフリをするのに疲れた」と供述している。その言葉はまさしく沢村のものだった。
事件はそれだけに止まらなかった。少女は犯行の様子をスマホで配信していた。現時点では動画が削除されているようだが、動画には目の前の少女たちが包丁で刺されていく様子が映っていたらしい。
これこそ、ひなまつりの覚悟だったのである。僕の嫌な予感は悪い意味で当たった。まさか自分の作品が犯行を引き起こすトリガーになるとは夢にも思わなかった。
ふと女子校という言葉が妙に引っかかった。胡桃さんと萌香さんの顔が思い浮かぶ。二人も女子校だったはずだ。東北にある女子校であることは知っていたが、どこかは知らなかった。確かM市も東北にあったような気がする。
奇妙な一致。僕は『人間ごっこ』を書いたことを後悔した。あんな小説を書いたせいで、こんなことが起こったのではないだろうか。見えない十字架が背中に貼りついているような気分だった。
事件について調べようとしたが、僕はスマホを閉じた。もし殺された少女の中に胡桃さんや萌香さんの名前があったら。そう思うだけで怖かった。僕は悪寒に襲われ、わなわなと震えた。
僕は悪くない。僕は悪くない。僕は悪くない。僕は悪くない。僕は悪くない。僕は悪くない。僕は何度も頭を振った。
吐き気がぶり返してきて、僕はよろよろと一歩ずつトイレに向かった。視界がグラグラと揺れる。
便座に右手を置き、僕は何度も胃液を吐いた。天罰だ。黄色の泡が便器の水面に浮かんでいる。
グラグラしていた視界が霞んでいく。まるで靄が目にくっついているようだった。右手が便座から滑り落ち、首が便器に向かって落ちていく。靄の海が近づいてき、僕はそこに突き落とされた。
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