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箱の中に白玉が三個、赤玉が二個あります。そこから、二個の玉を取り出すとき、赤玉を二個引く確率を求めなさい。
眠気が胡桃を襲う。フラフラになりながらも、胡桃は眠らないように気をつけた。バイトにエネルギーを注いだせいなのだろう。
「高倉さん、授業中ですよ」
担任の坂上と目が合った。
「すみません」
恥ずかしさを隠しながら、胡桃は頭を下げた。
「じゃあ、この問題を松永さん、お願いします」
松永梓が立ち上がって、黒板の前で問題を解いた。胡桃はぼんやりと梓の背中を見ていた。
ふと右側に視線を向けると野口が熱心にシャーペンを動かしていることに気づいた。板書をしているようにも見えるが、坂上に向ける回数が多かった。
昼休みになって、萌香が胡桃の肩を叩いた。
「いいな。話しかけられて」
「注意されただけだよ」
「坂上先生って、胡桃のこと好きなのかもよ。こないだ、胡桃のことでいろいろ聞かれたよ。最近、元気がなさそうだって」
「好きとかじゃないでしょ」
慌てて否定したが、悪い気はしなかった。
担任の坂上はちょうど三十歳。女子校には珍しい男性の先生である。ただ若いというだけではなく、背が高かった。クラスの女子の大半が坂上のファンのようなものだった。
「礼愛ちゃんもそう思うよね?」
「そうかな? 坂上先生は胡桃よりも梓ちゃんのことを指名することが多いと思うけど」
「やっぱり、テニス部だから?」
坂上はテニス部の顧問をしていた。帰り道で胡桃は坂上がボールを上げて、梓がスマッシュを決めているところを見たことがある。
「部活が一緒だと話す時間が増えるからね。二人が仲良く話しているところ見たことあるよ」
「礼愛ちゃんだって、よく先生と話しているよね? もしかして」
萌香は目を釣り上げて笑った。
「それは学級委員だからだよ。深い意味なんてないよ」
礼愛は茶化すように大きな声を出した。
三人で他愛のないことを話していると胡桃は遠くから視線を感じた。黒い髪の間から野口がこちらを覗いていた。
「こっちのこと見てるよね?」
胡桃は小さい声で囁くように言った。
「ねえ、知ってる?」
萌香が二人に顔を近づけた。
「多分、野口さん、坂上先生のことが好きなんだよ。こないだ見たんだ。ノートに先生のデッサンをしているとこ。その絵の中で野口さんと坂上先生が手をつないでたんだ」
萌香は嘔吐をする仕草をして笑いを誘った。胡桃は肩を竦ませながら、薄気味悪さを覚えた。
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