第二章 模倣

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 萌香は電車の中で野口の悪口を言っていた。胡桃はただ頷くほかなかった。次第に胡桃はウトウトし始めた。 「最近、胡桃、眠そうだよね? なんかあったの?」 「実はバイトをしてて」 「そうなんだ。でも、なんで? 大変じゃないの」 「早いうちから社会経験みたいな感じ」  胡桃は家庭の事情を萌香に言うことができなかった。必要以上に心配されるのが怖かった。 「胡桃はわたしと違って真面目だよね。わたしなんて。何もしてないし。あんまり頑張りすぎないでね」  電車が駅に着いた。できることなら、胡桃は萌香ともっと話していたかった。けれども、胡桃の事情を知らない萌香は駅を降りると「じゃあね」と言ってスタスタと駐輪場に向かった。  駅に備え付けてある時計は八時を指している。夜空には灰色の雲がかかっていた。胡桃はそっとため息をついた。   市外の駅にはマクドナルドやスターバックスなど皆無だった。シャッターを下した店舗が立ち並んでいる。  ふと胡桃は中学生のときに使っていた秘密基地を思い出した。そこで萌香と愚痴をこぼし合った。学校と違って誰にも話を聞かれる心配がない二人だけの場所だった。  商店街を抜けると田んぼが広がっていた。それから、坂道を上り、右に逸れるとポツンと木でできたログハウスがあった。クラスマッチで足が遅いと馬鹿にされたときに萌香が連れてってくれたことを胡桃は今でも覚えている。  胡桃は部屋の明かりをつけた。ログハウスの中には古びた机があるだけだった。胡桃はそこに荷物を置いて一息つくと物憂げな表情で腕時計を見つめた。 小田嶋がいるアパートよりはマシだったが、一人でいるのはどこか心細かった。萌香や礼愛がいてくれさえすれば、時間の経過が早く感じられるはずだった。  寂しさを紛らわそうと胡桃は携帯で萌香や礼愛に電話をかけようとしたが、うまい口実がなかった。
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