第二章 模倣

18/31
前へ
/89ページ
次へ
 胡桃が目を覚ますとそばで母親が寝息を立てていた。娘に何が起こったのかを知らないその顔は信じられないほど安らかだった。  音を出さないように襖を開けると昨日と同じように部屋が汚れていた。飲みかけの缶が悪臭を放っている。アルコールの臭いが昨日の惨劇を思い起こさせる。  今でも胡桃のうなじに汚れた舌が這っている。払ったところで、こびりついた粘液は取れそうもない。かえってむしろ、うなじに付着していた粘液が手にまで侵食してきた。  いつもよりシャワーの水圧が弱い気がした。胡桃は四十度を超えるお湯をうなじにかけ続けた。ここまでしないと粘液に含まれている雑菌が死滅しないような気がした。  汚らしい。汚らしい。汚らしい。汚らしい。汚らしい。汚らしい。汚らしい。汚らしい。汚らしい。汚らしい。汚らしい。汚らしい。汚らしい。  ボディーソープを泡立てて、胡桃は全身に塗りたくった。特にうなじと手と下半身は入念に洗った。シャワーで泡を流す。それでも、小田嶋の痕跡が体から消え去ってくれたとは微塵も思えなかった。
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加